第6話 アインズ様の最も長い一日・前編
「オ館様。オ願イノ儀ガ御座イマス。
コノ者……脆弱コノ上無キ者ナレド、ヨリ高キヘ昇ルヤニ思ワレル光ヲ覚エマスレバ、コノ場ハ一命ヲ助スコトヲオ許シ頂キタク。」
「ん?
あー、いいんじゃね?」
周辺知的生物の動向調査をおこなっていたデミウルゴスから、手頃な獲物を見つけたとの報を受け、アインズは今回は蟲王コキュートスを供に連れて狩りに出ることを決めた。
自らは『塩撒く剣団』と名乗っている相撲取りのような一団……これは誤記ではなく、最初の報告を受けた際アインズにはそう聞こえたし、大して興味もないので問い正さなかったゆえである……は、傭兵団を標榜してはいるが、実のところはただの野盗の類だった。
例によって、その塩撒きの根城となる洞窟から少し離れた地点から、コキュートスと共に儀式をこなしつつアインズは歩む。
際しては、オリジナルのそれの創始にコキュートスの創造主であるところのギルドたっての武闘派であった武人建御雷が果たした寄与について語って聞かせ、コキュートスを歓喜せしむることをアインズは怠らない。
もっとも、堂々たる武力の対峙を旨とする武人建御雷自身はどちらかと言えばチェックリストのような彼からすれば小賢しくすら思われる技術に対しては顔を顰めていたくちで、むしろ否定的に問題点を指摘する側でその陶冶に貢献したのだが、そんなことまでコキュートスに教えてやる必要もないだろう。
わかっていたことではあるが、狩り自体はあっけなかった。
事前にデミウルゴスから、塩撒きたちが自分たちの性欲処理のために数名の攫ってきた若い女性を囲っていることは聞いていて、面制圧で彼女らを巻き添えにすることは流石のアインズにも躊躇われた。
そこで、コキュートスには想定外の攻撃があった際……そんなものあるはずはない、と百も承知ではあるのだが……の初手の防御以外は手出し無用を命じて半歩後ろにつかせ、アインズ自身は獲物を<魔法の矢>で各個撃破していく、という戦術を選択した。
まぁこの場合、戦術、などというものは特段の存在意義を持たなかったのだが。
三十余名を屠ってかなり満足した気分を味わっていたアインズが、洞窟奥から現れた無根拠に自信あり気な青髪の男を瞬殺しなかったのは、ただただ彼が肩に背負っていた得物が、アインズが知るところのいわゆる日本刀に酷似していたことに微かな興味を惹かれたがゆえで、それ以上に深い意味はなかった。
その男……無論、名前はあるのだが、最後までアインズの記憶には残らなかったので、ここにも記す必要はあるまい……は、アインズとコキュートスの姿を見ただけで戦意喪失し狩られるがままになった他の野盗とは異なり、如何程の自負あってのことか、あるいは生物として有していて然りの本能的危険察知能力に根本的な欠陥があるのか……おそらくは後者だろう……はわからないが、堂々とアインズ主従の前に立つや、納刀したままの剣先をコキュートスへ屹と向けた。
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