01 - 1204/04/02 属性と在り方
────これは、とある人物たちのかけがえのない日常の記録だ。
1204/04/02(金)
入学式と同日に入寮式もあり、とりあえず何かあったら二年生に投げて大丈夫だよ、というのを一年生に伝えた三月が終わって金曜日。
新生活に慣れようとしている新入生への対応をして何かと忙しくしているトワは今日も上がるのが遅いらしい。書類整理を代わることは出来ないけれど、せめて晩御飯を差し入れようとサンドイッチとフライドポテトをこさえたところで腰につけているポーチから音が鳴り始めた。
ちょうど編み籠のランチボックスにモノを詰め終わったところだったので、エプロンを解きながら通信に出る。
「はい、セリ・ローランドです」
『こちらトワです。今大丈夫?』
「うん、平気だけどどうかした?」
ARCUSを肩と耳で挟みながらエプロンを巻き畳んで、台所の端に置いていたジャケットを羽織る。校内にはトリスタの住民の方々も入るので必ずしも制服でなければならないということはないけれど、制服を着ておいた方が何かと面倒がないというのは確かなのだ。
『実は……その、助けてもらいたいことがあって』
助けてもらいたいこと。トワがヘルプを出すこと自体珍しい気もするけれど、逆に部下の生徒会役員ではない人員でないと駄目だと彼女が判断したなら、それは正しいのだと思う。
ARCUSを持ち直してから台所の各自の私物置き場にエプロンを突っ込み、ランチボックスを携えつつ何とか寮の玄関扉に手をかける。
「概要は?」
『生徒手帳に載せるARCUSの説明書についてなんだ』
「なるほど、わかった。10分ぐらいでそっちに着くよ」
寮を出たところで、学院から続く坂道を降っていく赤い制服の数人が見えた。ARCUS特科クラス──通称VII組。ニ月頃から噂には聞いていたけれど、白と緑しかなかった制服の中にあの赤は鮮烈だなと思う。目が慣れるのに少し時間がかかるかもしれない。
夕陽の中で楽しそうに話している彼らを見送り、私は見慣れた坂道を籠の中身が暴れない程度の速度で駆け上がっていく。正門を通り、本校舎と図書館の間の道を抜けていけば二階奥側の窓からは煌々と灯りがこぼれているのが見えた。
学生会館へ入ると片付けをし始めているジェイムズさんと食堂のサマンサさんに挨拶をして階段へ。ノックをして入った部屋には、いつもの面子が揃っていた。どうやら私が最後のようで。
「セリちゃん、来てくれてありがとう!」
「あー、全員いたのかぁ。サンドイッチ作ってきたんだけど足りないね」
「それなら下で摘めるもん頼んであっから丁度いいくらいだろ」
クロウの言葉でさっきサマンサさんから、頑張ってね、と言われた理由に合点がいった。なるほど。
「それで何があったの?」
抱えていた籠を執務机の前にあるソファ席のテーブルに置いて近付くと、ジョルジュからペラりと紙が一枚寄越された。
「……ARCUS特科クラス用の生徒手帳がまだ作られてない?」
「僕も今さっき聞いたけど、そういうことみたいだね。僕たちの時は説明書も仕様書も出来上がっていなかったわけだけれど、正式なカリキュラムとして運用させるなら生徒手帳にARCUSの操作説明は入れて然るべきなわけで」
「その草稿を誰も書いていなかった、ということらしい」
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