13 - 07/18 図書館案内
1204/07/18(日) 自由行動日
図書館の雰囲気はいつ来ても好きだ。基本的に静かで、屋内の人口密度もあまり高くなく、おまけに夏でも少しだけ涼しい。司書のキャロルさんから、クロウ君に本の貸出期限が過ぎているから伝えておいてくれる?、とたまに言われるのが瑕ぐらいだろうか。
「あれ、セリ先輩」
二階の棚を眺めていて、探したいものの方向性的に閉架の方にも潜るべきだろうかと考えていたところで名前が呼ばれた。振り向いてみるとVII組のリィンくん。足捌きがたまに独特なのでわかりやすい気配の一つだ。八葉一刀流、いつか手合わせをさせてくれるだろうか。
「こんにちは、何か探し物? 図書館はそれなりに慣れてるからお手伝いできると思うけど」
「いえ、俺は生徒会の手伝いついでにすこし見回ってただけですね」
「君もトワに似て働き者だねえ」
「会長と比べたらなんてことないですよ」
一年生の彼から見てもトワの働きぶりはわかってしまうようで、あんまり良くないなぁと思案する。努力が目に見えることが悪いわけではないけれど、おそらくトワは見せないようにしているというところもあるので、それを超えて忙しさが見えているというのはどうも手が届いていないような感覚がある、という話だ。
「先輩こそ探し物ですか?」
「うん。ちょっと周辺の歴史書をね。でも開架されてないみたいだから地下かな」
私の言葉にリィンくんが僅かに首を傾げる。
「閉架書庫、入ったことない?」
「ない、ですね。結構な数の蔵書が一階と二階にあるので」
「大概それで事足りるようにキャロルさんがしてくれてるからね」
長いこと学院に勤めているキャロルさんは生徒にとっての需要をよくわかってくださっているようで、基本的なところは閉架書庫に入らずとも問題ないよう手を尽くしてくれている。それも季節ごと・流行ごとに入れ替えている棚もあるようで頭が上がらない。
けれど歴史書に関してはトマス教官が図書館で広げてしまい他の人間が借り損なう懸念からあまり表には出されていないという、なんともな話があったりするわけだけれど。去年は地下に籠る場所を作り始めたりもあって、キャロルさんとトマス教官の攻防をたまに見かけて助太刀したりもした。
「よければ閉架書庫案内しようか」
不思議そうな顔をしていたリィンくんにそう提案すると、ぱっと顔が明るくなった。
「いいんですか?」
「うん。VII組は特に実習の事前学習で入ることは想定されて……もしかして聞いてない?」
「聞かされてないです」
サラ教官らしいや、と二人で笑いながら一階へ降りてキャロルさんの許可もきちんと得て、カウンター裏の扉から事務室横の階段へ足を踏み入れる。本は湿気に弱いためかなり高価な蒼耀石に導力回路を反応させた作りになっていて、夏でもひんやりとしている。RF社の室温調整導力器とはまた別の技術だ。
「涼しいですね」
「大きなクーラーボックスみたいなものだからね」
夏は特に外気温との差が激しいので、出入りする際は汗が冷えて風邪をひきかねないから気をつけるように、と去年キャロルさんから何度も言われたものだ。
今日はたまたま人がいないのか誰の気配もまるでなく、こつりこつりと二人の靴音をうっすらと響かせながら棚で作られた壁の間を歩いていく。
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