05 - 04/20 実習当日
1204/04/20(火) 放課後 端末室
「……この班分け大丈夫なんですか?」
端末室で資料片手に初回の特別実習について聞きながら清書用にキーボードを叩いていたところで、メンバー一覧を眺めて眉を顰めてしまった。
「まぁちょっとしたスパイスにはなるんじゃないかしら」
「スパイス通り越して爆竹にならないといいですけど」
ケルディック組はそもそも噂が流れてくるような人物がいないので特に感想はないのだけれど、パルム組は二年生の私のところにでさえも伝わってくるほどの犬猿の仲が含まれているのだ。これを分けずに一緒のグループにするところがサラ教官らしいというか何というか。
「ま、最終的に殴り合って解り合うとかじゃないかしら?」
「別にクロウとアンは殴り合って和解したわけじゃないですから」
あれはいろんなピースがあの瞬間にハマったのだ。あの猟兵とは到底言えない傭兵たちの案件に巻き込まれたことを決して是とは出来ないけれど、あのタイミングであの事件がなかったらクロウとアンはいつ雪解けをしたのだろうとたまに考えたりはする。特に意味のない話だけれど。
「そうね。君たち全員の賜物ね」
「まあ、三ヶ月かかりましたけど」
「じゃあ少なくともそれくらいは見守ってあげましょ」
「了解です」
二人で、ふふ、と笑いながら手書きの資料をめくると、何故か私の名前が書かれているのが一瞬見える。と言ってもこんな実習関連のメモ書きに自分の名前が載るようなことはないと思うので、すわ見間違いかともう一度注視する。B班案内人、セリ・ローランド。
「教官?」
「……」
「教官?」
資料を両手で持って、窓際で黄昏ているサラ教官に訊ねる。これはどういうことなのかと。するとようやく、五回目ぐらいで困った風に笑った教官が両手を合わせて小首を傾げて来た。
「パルムってもう行くだけで一日……いや下手すると二日仕事じゃないですか」
「そう、だからお願いしたいのよ」
「それならケルディックを私に任せて教官がパルムへ行くべきじゃないですか!?」
「そうなんだけどB班ってほらちょっとこう」
「その班分けしたのは教官ですよねえ!」
駄目だやっぱりスパイスどころか爆竹というか発破かもしれない。そしてそれを理解して私に任せようという教官の意図が……掴めないこともないところが正直ある。
「パルム、行ったことあるでしょ?」
「そりゃ、まあ、ありますよ」
パルムは帝国随一の織物産業を誇る町だ。おなじサザーラント州で職人を抱える街として交流があるというのは確かで、私も叔父さん叔母さんについてパルムの元締めであるガラートさんと会ったことは何度もある。でもそれとこれはまた別で。
「白の小道亭って宿を取ってるんだけど」
「シチューとチキンパイが美味しい店ですね」
パルムは観光地も兼ねているため何軒か宿屋があって、白の小道亭は特に美味しいのでアタリだと思う。というかやっぱりご飯の美味しさで宿屋を決めているのではないだろうか。モチベーション維持としては正しい選択なのだろうけれど。
「そうなのよ、これがお酒と合わせると本当に!」
「ってつまり教官も行ったことあるじゃないですか」
「おっと」
さも口が滑ったという風情だけれど、本当に言うつもりがないならこの人は言わないでいられる人だ。だからこれは戯れ。なればこそ私は考えなければならない。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/9
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク