入学式
真新しい制服に身を包んだ少年・矢幡秋水。
彼の視線の先には国立魔法大学附属第一高校入学式、と電子式の掲示板に堅苦しいフォントで映し出されていた。
彼の周囲には秋水と同じように真新しい第一高校の制服に身を包んだ新入生たちと、入学を祝う父兄の姿。これから送ることになる全くの新しい生活に心躍らせる者ばかりで、秋水のように無表情で校内のメインストリートを歩く者などいなかった。
講堂に入った時点で会場の席の半数が埋められていた。
席は自由だと知らされていたのだが、新入生の並びには明確な区分が存在していた。
前半分、制服に八枚花弁のエンブレムがあしらわれている生徒たち。後ろ半分はそれらがない生徒たちだった。この学校には入学試験の結果に沿って、定員二百名の新入生を一科と二科に分けている。これは後進の育成に必要な教員が慢性的に不足しているという現状からくるものだった。
入試で優秀な成績を収めた魔法師の雛鳥が大成し、微力ながらも国の戦力となるようにという思惑なのは容易に想像ができる。だから、魔法科高校では教育機会の均等というものは存在しないのだ。育成者が少ない現状ではそれは望めない。仕方のないことだ。
「そんな大仰なものでもないだろうに」
一科と二科で意識の壁が既に出来上がっていることを感じたが、わざわざそれに従うつもりもなかった秋水は、出入り口に近い席に座った。
一科生と二科生には意識においても厚い壁が存在している。
一科生を花冠、二科生を雑草と揶揄されており、これらの単語は風紀委員による摘発を受けることになる。学校側は出来る限りの差別はしていない。教育に関してはどうしようもないのだが、それ以外の点では二科の生徒たちを差別するようなものは感じられなかった。
この差別問題はどちらかというと、生徒たちが感じている一科と二科の差によって生まれた意識の違いだろう。
式が始まるまで秋水の周りに座ろうとする二科生はいなかった。一科生だから避けているというよりかは、どちらかというと不気味に思っているというのが大きいだろう。だが座る席も少なくなってきたこともあり、秋水の周りの席も徐々に埋められていった。
待つだけというのは暇なものだ。何かをしている方が時間が早く過ぎていく。いつもより時間の経過を遅く感じたが、式典の開始時間になったのか、マイクの前に立った生徒が口を開き、入学式の開始を宣言した。
つまらない式典が続いていたが、唯一見どころとも言うべきところがあったのは、新入生総代となった女子生徒の答辞だった。答辞の内容は素晴らしいものだったが、気になる点はいくつかあった。少女は答辞でこの学校の制度について不満を口にしたのだ。周囲の者は少女のあまりにも美麗な雰囲気に心を奪われていたのもあって、それに対して何も言わなかった。
「司波深雪……ね」
興味なさげに呟いてはいるが、末恐ろしいものだ。
第一高校の総代は、入学試験の成績最優秀者が選ばれる仕組みとなっている。容姿がとても美しいあの少女が総代を務めるほどの実力者であり、それ相応の成績を叩き出したということになるのだ。
自分の生まれ、存在そのものが歪であることを自覚している秋水は、答辞を読み上げている司波深雪に思うところがあったが、それには目を瞑ることにした。
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