九校戦の準備
五限目に発足式が開かれるとのことで、九校戦に出場するメンバーは指定された時間に講堂の舞台裏へと集まった。
「にしても、司波さんがエンジニアで選出されるとは思わなかったよ。研究者肌だと思ってたんだけど、人は見かけによらないねぇ」
達也がエンジニアとして選出されていたのだ。
どうやら第一高校は魔法師志望の生徒が多く、逆に魔工師志望の生徒は少ない。そうなると必然的に、九校戦で選手のCADを調整するエンジニアが足りなくなってしまう。今年も例に漏れず、エンジニアの選出に苦労していたとのことだ。
そこに白羽の矢が立ったのが達也だった。達也は深雪のCADの調整をしており、それが生徒会長たちの耳に入ったのだとか。深雪の願いもあり、断れなくなった達也は、その腕を披露することになった。生徒会のメンバー、摩利、克人が達也のエンジニアチーム入りを推したことで、二科生だからと難癖をつけていた反対派も押し黙り、エンジニアとなったそうだ。
秋水は期末試験の結果を見て、達也は研究者肌なのではないかと思っていた。とは言っても、四月では風紀委員としても大活躍だったのを思い出すと、人は見かけによらないところが大きいのだと改めて実感した。
「選ばれたのは凄いけど、中々に大変だったね……」
「今に始まったことじゃない気がするがな」
入学早々から、達也が色々とあったのを見ていた側である秋水は、苦笑するしかなかった。
どうやら達也は、トラブルが起きるのはもうどうしようもないと諦め気味な様子だ。
秋水は先日、雫が言っていた通り、モノリス・コードに出場することになった。後もう一種目はアイス・ピラーズ・ブレイクだった。
秋水が知る限りの同級生で出場するのは、深雪、雫、ほのか、後は森崎の四人。この四人が出る競技は想像がつく。
「そういえば、お前が出る競技はかなり悩まされたらしいぞ」
「……だろうね」
得意と言える魔法は明かしたことはないし、四月の件では刀を振り回していたから、魔法なんて人前で使っていない。
だから、どの競技に出させるかは相当苦労したんだとか。知ったことじゃないから気にしないことにする。
選手のユニフォームであるテーラード型スポーツジャケットを手早く着た秋水は、嬉しそうにしている深雪に観念して、妹の手で薄手のブルゾンを着せられていた達也を見る。
彼女が嬉しそうなのは、達也が着る服にちゃんと第一高校の校章である八枚花弁のエンブレムが付いていたからだろう。
仲睦まじくしている司波兄妹につい微笑んでしまうが、何故だか知らないが、口の中が甘ったるい。
そして――羨ましい――とも思ってしまう。
それを胸の中、奥深くにしまいこむ。
どうしてもこの二人に重ね合わせてしまいそうになる、よく知った人の影から目を逸らし、知らないフリしながら。
発足式は問題無く進んだ。
徽章を一人一人に取り付けるという行為は、かなり手間のかかる面倒なことだと思うのだが、それをしている深雪は器用な手付きでこなしていく。彼女のにこやかな表情は男子は当然として、女子でさえ頬を赤くさせており、周りから見れば微笑ましいことになっていた。
「一年D組、矢幡秋水くん」
一歩、前に出る。
深雪がジャケットの襟元に徽章を取り付けている僅かな間、視線は彼女に集中する。
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