十師族
真由美たちと談笑をしているのは、第一高校のライバル校と目されている第三高校の生徒会役員の面々だった。
その後ろでは第三高校の一年生が何やらこっそりと囁き合っていた。
その内容は、深雪についてだった。
可愛いだの、なんだのと言いながら、深雪に並々ならぬ視線を向けている男子生徒たちの中に、目的の人物がそこにいた。
その男子生徒の容貌は、凛々しい顔立ち、若武者風の美男子、と古風な表現が当てはまる。
「ジョージ、お前、あの子のこと、知ってるか?」
一条将輝が隣にいた男子生徒に、深雪のことを尋ねていた。
「ああ、一高の一年生だよ。名前は司波深雪。出場する競技はピラーズ・ブレイクとフェアリー・ダンス。一高一年のエースの一人らしい」
「げっ、才色兼備ってやつ?」
将輝がジョージと呼んだ生徒――吉祥寺真紅郎が将輝の問いに即答する。
容姿に限らず、深雪がエースの一人とされているということに、周りにいた男子生徒が羨む声を上げていた。
そのまま彼女に視線を向けていても良かったが、気になることを言っていた吉祥寺に顔を向ける。
「エースの一人? まだ誰かいるのか?」
将輝からの連続の問いに、吉祥寺は頷きながら答えた。
「矢幡秋水。司波深雪と同じく一年のエース。出場競技は将輝と同じで、ピラーズ・ブレイクとモノリス・コード」
「ほう」
自分と全く同じ競技に、一年のエースを当ててきていることに将輝は少し驚いたような声を溢した。
「心配しなくても、将輝が負けるような相手じゃないと思うよ」
「ふっ、そうだな」
吉祥寺の言う通り、第三高校の生徒たち全員が将輝の勝利を疑っていない。逆に、十師族の一人である彼が出場する競技に合わせて、エースを当ててきた第一高校は大丈夫かと煽るようなことを言い出す生徒まで現れた。だが、それが小声だったこともあり、幸いにも聞こえたのが自分たちだけだった。
十師族でもない生徒が相手になるわけがない。
才能という大きな壁は、例えどんなことがあっても破られることはない。
「……!?」
誰かの視線を感じ取った将輝は、振り返って確認をする。
人混みに紛れて、まっすぐに彼を見つめる瞳があった。壁に背を預けて、空になったグラスで遊んでいる秋水だった。
真面目な顔をして見ているわけでもなく、口角を上げてこちらを見るその姿に、不気味さ、そして背筋が凍るのを感じた。
「将輝、どうしたの?」
吉祥寺たちには秋水にずっと見られていたとは思ってもいないだろう。現に将輝も、こうして視線を感じていなければ見つけることはできなかった。
「……いや、何でもない」
油断ならない相手かもしれないと、警鐘が鳴っているのを感じた将輝は、射抜くような秋水の瞳を忘れることはできなかった。
来賓の挨拶が始まり、懇親会に参加している世慣れない高校生たちは、食事の手を止め、談笑を中断して、いつも以上に真面目な態度で来賓の声に耳を傾けていた。
魔法界の名士たちの顔を見るのは、多くの生徒が有意義なものだと思っているのかもしれない。
ここにいる多くの人間が注目するのは、「老師」と呼ばれる人物だろう。
その者の名は、九島烈。
日本に十師族という序列を確立した人物であり、二十年ほど前までは世界最強の魔法師の一人と目されていた。最強の名を維持したまま第一線を退いて以来、人前に姿を現すことなど稀に等しいのだが、毎年、九校戦にだけは顔を出すことで知られている。
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