実力差
コースの整備が終わり、選手がコールされたところで、達也はようやく解放された。
「うわっ、相変わらず偉そうな女……」
エリカが悪びれることなく敵意むき出しで摩利を見ている。敵意を向ける理由は分からないが、知りたいとも思わないのでスルーしておく。彼女の隣に座っているレオと美月も、聞かなかったことにしている。
横一列に並ぶ四人の選手。摩利がボードの上に悠然と立っているが、他の三人は膝立ち、片膝立ちで構えている。バランス感覚の違いを顕著に表しているのだが、エリカはどうやら別の捉え方をしていたようだ。
選手紹介アナウンスが流れ、摩利の名前が呼ばれると、黄色い歓声が上がる。
摩利が手を挙げて応えると、その音量はますます大きくなる。
「……どうもうちの先輩たちには、妙に熱心なファンが付いているんだな」
「分かる気がします。渡辺先輩は格好良いですから」
達也はともかく、深雪がまるで他人事のように頷く。
誰もが認める美貌を持つ深雪ならば、新人戦でその姿を見せるだけで、男女問わず熱心なファンを獲得することになるだろうに。狂信めいたファンは時に面倒事を引き起こす要因になりかねない。気を付けるべきだ――と言いたいところだが、当人が気を付けていたとしてもどうしようもない。人を引き付けてしまう容姿を持つ人間は、必然的に相応の苦労をすることになるのは避けられないだろう。
『用意』
スピーカーから合図が流れ、空砲が響き渡る。
瞬間、第四高校の選手が後方の水面を爆破した。
「自爆戦術?」
呆れ声を出したのはエリカだった。
爆破させることは問題ない。爆破によって作られた大波をサーフィンの要領で推進力に利用することはできる。だが、自分がバランスを崩してしまうほどの荒波では意味がない。
スタートダッシュを決めた摩利が、第四高校の選手が起こした波に巻き込まれることも無く、早くも独走状態になっていた。
「硬化魔法の応用と移動魔法のマルチキャストか」
「硬化魔法? 何を硬化しているんだ?」
「ボードから落ちないように、自分とボードの相対位置を固定しているんだ」
達也の言葉にしっくり来なかったのか、レオは「?」の顔をしていた。
摩利が行っているのは、ボードと自分を一つのパーツとし、その相対位置を固定化するものだ。移動魔法は一つのオブジェクトとなったボードと自分に対してかけている。
「それも常駐じゃない。どちらもコースの変化に合わせて、前の魔法と次の魔法が被らないように定義している」
「へぇ」
硬化魔法を得意としているレオは、それが高度な技術だと理解できていた。
水路に設けられた上り坂を、水流に逆らって昇っていく。
外部からのベクトルを逆転させる加速魔法。さらには造波抵抗を弱めるために振動魔法も併用しているようだ。
「凄いな。常に三種類、四種類の魔法をマルチキャストしている」
達也の口から自然と称賛の言葉が漏れた。
一つ一つの魔法はどれも強力というわけではない。だが、変化する状況に合わせて多種多彩に重ねられていく魔法は、観客を魅了していた。
坂を昇り切り、滝をジャンプ。着水と同時に水しぶきを上げた。
巻き上がる水しぶきによって、後続の選手たちに大きな影響を与え、落水寸前に陥らせた。
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