実力差
真由美がシューティングレンジにその姿を見せると、会場が一斉に沸いた。そこら中に設置されているディスプレイに「お静かに願いします」というメッセージが映し出され、歓声は波が引くように収まっていく。会場は真由美の応援団が埋め尽くしており、対戦相手の選手の雰囲気は完全にアウェー。
そんな相手を気遣ってなのか、真由美は観客の応援をないものとしてCADを構え、開始の合図を待っている。
五つあるシグナルが一つずつ灯り、全て光ると赤と白の円盤が射出される。
真由美が撃ち落とすべき赤いクレーは、得点の有効範囲に入った瞬間、一つの例外も無く破壊されていく。それでは相手が有効範囲の中心で手当たり次第に魔法を放てるというアドバンテージを与えてしまうが、それすらも凌駕する技量を真由美は見せつけてくる。
「『魔弾の射手』……去年よりさらに速くなっています」
深雪の声に、達也は頷いていた。
それは、白いクレーの向こう側を飛ぶ赤いクレーを、下から撃ち抜いたドライアイスの弾丸にあった。
スピード・シューティングでは真由美のように魔法で弾丸を生成し、それを用いて狙撃するという戦術を採る選手は彼女だけと言えるだろう。基本的には、クレーに直接振動魔法をかけるか、移動魔法をかけて別のクレーと衝突させて破壊するという戦術を使う。魔法は物理的な障害物に左右されることはない。つまり、姿の見えない標的を破壊するのに特別な技術を必要とすることは本来、無い。
『魔弾の射手』と名付けられているこの魔法の本質は、対象を死角から攻撃することにある。弾丸を作り出し、撃ち出す魔法ではなく、弾丸を射出する位置――射手のポジションを作り出す。そのために、この魔法を使うにはマルチスコープを併用することになる。結果として、真由美はあらゆる角度からの狙撃を可能とする。
真由美の戦法上、真由美も相手選手も邪魔されることなく魔法を行使することができている。そうなれば、戦いはスピードと照準の精密さによる個人の技量での勝負となる。
十師族である真由美に敵う選手はいないだろう。相手には気の毒な話だが、高校生レベルではもはや勝負になっていなかった。
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