ハーメルン
壊れた器は元には戻らない
妨害

 迫り来る選手の気配に気づき、肩越しに振り返る。
 すぐさま加速の魔法をキャンセルし、水平方向の回転加速に切り替える。水路壁に反射した波も利用して、ボードを百八十度ターンさせた。
 そこからさらに、七高選手を受け止めるための魔法と、突っ込んでくるボードを弾き飛ばすための魔法をマルチキャストする。

「まずい!!」

 摩利の進行方向に不自然に起きた、小さな変化。
 誰もが事故に目を向けている中、唯一気づくことができた秋水が席を立ち上がりながら声を張り上げるも、既に遅かった。
 突如浮力を失い、意識を削がれた摩利の魔法はボードを弾くことに成功したものの、選手を受け止めるための魔法が発動する前に、衝突。
 もつれ合いながらフェンスを破壊して水路から二人の体が飛び出た。
 受け身は取れていない。骨は間違いなく折れているはずだ。
 レース中断の旗が振られ、ここにいる全員が二人の安否を気に掛ける。

「お兄様!」
「行ってくる。お前たちは待て」
「分かりました」
「っ……」

 ここで出しゃばったところで、何もできないことは理解している。飛び出したい気持ちをなんとか抑えながら、秋水は席に座る。
 何かできる術を持っているであろう達也は、人の密集するスタンドを手品のようにすり抜けながら駆け下りていく。

「……何も、できない。よく分かっているはずだよ、ウチ」

 冷静さを欠こうとしている自分に言い聞かせ、頭を冷やす。
 正直、親しい間柄でもない摩利が事故に遭ったとしても、秋水に何か大きく変化が訪れることはない。今のように冷静さを欠くことなどありはしない。
 だが、それを嘲笑うように、過去の記憶が牙を剥く。
 頭を横に振ることでそれを振り払い、担架で運ばれていく摩利を見守る。
 昨日、天秤が示した凶が、降りかかってきたのだと秋水は思った。

 三日目の試合が全て終了した後、秋水は達也に呼び出されて、美月、幹比古と共に彼の部屋を訪れた。

「ご紹介します。俺のクラスメイトの、吉田と柴田です。矢幡は違いますが、新人戦のエースの一人とされていますのでご存知かと。
 知っていると思うが、二年の五十里先輩と千代田先輩だ」

 既に中には五十里と千代田がいて、お互いに簡単な自己紹介を済ませた。

「三人には、水中工作員の謎を解くために来てもらいました」

 五十里と千代田の二人に対しての説明。

「俺たちは今、渡辺先輩が第三者の不正な魔法により妨害を受けた可能性について検証している」

 そしてこれは、秋水たち三人に対しての説明。
 秋水は既に妨害を受けた可能性があるとたどり着いているので、特に驚きはしないが、幹比古と美月は驚いていた。

「渡辺先輩が体勢を崩す直前、水面が不自然に陥没した。その所為で渡辺先輩の慣性中和魔法のタイミングがずれ、フェンスに衝突することになってしまった。この水面陥没は、ほぼ確実に、水中からの魔法干渉によるものだ。
 コース外から気づかれることなく水路内に魔法を仕掛けることは不可能だ。遅延発動魔法の可能性も低い。
 だとすれば、水中に潜んだ何者かによって仕掛けられた、というのが俺と五十里先輩の見解だ」

 確認の眼差しを向けてきたので、理解の意を頷きで返す。

[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/4

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析