ハーメルン
詐欺師トレーナーはトレセン学園で信頼を集めて大勢から大金を奪うつもりのようです
詐欺師トレーナー、夏合宿に行く
夏の色濃い空気と空は白い雲でも浄化しきれぬ程に鮮やかで、若々しい思い出を連れてくる。
合宿に参加する生徒達がグループごとに別れてバスに乗り込み、同行するトレーナーや職員もそれに追随して乗車する。
私は当初この合宿に参加するつもりなどなかった。三ノ宮優歩は担当ウマ娘が大きく成長する機会だと熱く語っていたが、成長結果は競走成績で分かればいいのであって過程を知る必要は無い。
だが、突発的要緊急対応事案が発生したので急遽参加を決意した。これに対してバクはいつも通りの反応を見せ、三ノ宮優歩は私の五月病が治っただの意味不明な事を言っていた。五月病とは失礼な、いつ私が先日まで五月病に見える程に情熱を出していた? それは買い被りだ。
窓際の席に頬杖をついて外を眺めていると、スマホが小さく震えた。丁度高速通りに差し掛かり景色にも飽きていた私は、眠い目を擦りながら指紋認証でロック画面を開くと通知履歴を確認した。そこには2分前にメッセージが送られた事を示す文章があり、その名前によって私の眠気は僅かに和らぐ。重要度的にその程度の名前だ。
三ノ宮優歩:鵜海さん、少し良いですか?
鵜海晴希:なんでしょうか?
三ノ宮優歩:実はご相談がありまして
どうせ大した相談では無いだろう。私はそう思いながら静かな欠伸をして画面を見つめた。
三ノ宮優歩:ライスシャワーについてなのですが
そこで私の眠気は覚めて返信を打つ手が止まる。ライスシャワーから三ノ宮優歩についての相談は不定期的に続いていたが、三ノ宮優歩から来たのは初めてだった。まさかトレーニングなどについての相談では無いだろう。とすれば、私の得意分野についての質問と推測出来る。
鵜海晴希:どういったご相談でしょうか?
三ノ宮優歩:今日お時間を頂けますか?
まるで向こうが歩み寄ってくれない。私には断る理由が無いが、他を受け入れられない辺りどうやらかなり思いつめているらしい。
鵜海晴希:直接ご相談されたいのですか?
三ノ宮優歩:ご迷惑でなければ……。
はっきり言って迷惑だ。なぜ面と向かって話す必要があるのか分からない。悩み事は熟成せずに即座に打ち明けて解消すべきだ。どうせ今現在三ノ宮優歩が持つ悩みなど私に把握出来る範囲であり、下手に抱えてせっかく整えた精神に歪みが現れたら面倒だ。さっさと吐いてほしい。
鵜海晴希:分かりました。夜は少し予定があるのですが、夕方までなら問題ありませんよ。
三ノ宮優歩:ありがとうございます。後程お伺い致します。
それきり連絡は無かった。三ノ宮優歩とは違う車両のため様子を見れないのが悔やまれる。
(この調子だと長い相談になりそうだな)
溜め息をエンジン音に紛れさせていると再び手元が震えた。そこに表示された名は三ノ宮優歩よりも遥かに優先度が高い。
鵜海晴希:何の用だ?
ゴールドシップ:んだよ、つれねーな。
鵜海晴希:下手に私に連絡するな。メッセージを送る時も周囲に気を使え。
ゴールドシップ:おうおう文字だと怖いな。
何か重要な連絡かと思ったら暇潰しに遊ばれているだけだった。三ノ宮優歩の眠い言葉に付き合うよりはマシであるが、不安と警戒は拭えない。あの軽薄で大胆不敵な性格だ。ありえないだろうと考えつつも周囲に喧伝する様子も用意に想像出来てしまうのも事実。
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