ハーメルン
詐欺師トレーナーはトレセン学園で信頼を集めて大勢から大金を奪うつもりのようです
詐欺師トレーナー、罪を犯す
見た瞬間にそれと分かった。人はこれを直感と呼び、または勘と表現する。
この場合のそれとは明晰夢だ。
私は見覚えのある風景──トレセン学園の中を歩いている。それは何かに決められたルートではく自由な視線によって自由に進む事が出来、そして自由に喋ることが出来る。
私は自由に動いているが、周りには誰もいない。どこか世界も白んでいて眩しいくらい明るい。だがそう思えば周囲は賑やかになり、光量も減った。あらゆる事が私に都合良く出来ていた。
そのおかげで私はそこを夢の世界だと認識する事が出来たのだ。都合の良い世界で都合良く行動する。それこそ夢で再現された私の夢だ。
──なんて、なんて心地いいんだろうか。
私のために存在する輝かしい学園の中を進んでいくと校舎の入り口が見えた。私はそこへ自分の意志で入り進んでいく。或いは、そう思っているだけかもしれない。それは今動いている足が私の意に反しているからだ。
それから、明確に私の意に反して右手にナイフが現れてそれを力強く握った。ナイフは私の嫌いな武器だ。手が汚れてしまうからだ。
──どうせなら銃にしてくれ。
そう願うと目の前に影が生まれた。それは形を変えながら着色されていき、そして私から逃げるようにして走り始める。私もそれを追い、すぐに追いつき地にねじ伏せた。
ソレと目と目が合うと右手のナイフは銃に変化した。ソレとの距離は限りなく近い。
──違う。私は直接手を汚したく無いんだ。これではナイフも銃も変わらない……!
そして、今まで無音だった世界に初めて音がつく。この世界で最初に生まれ、最初に私の耳に届いた音が私の視界を切り裂く。
「鵜飼君……! やめ──!!!」
それで目が覚めてくれたらどんなに良かっただろうか。だが私の夢が覚める事は無く、代わりに涙に顔を歪ませる“彼女”に銃口を突きつけた。
発砲音が響いてようやく世界は切り替わる。
目覚めた私は夢と現実の差を認識し、五体の自由を調べ、それから夢の内容を忘れようとする。
しかし夢は限りなくリアルで、そのリアルな夢を正夢にしなくてはならない現実は忘れる事が出来ない。それはどこまでも先回りしてくる。
とめどなく流れ出る汗と吐き気によって一日の始まりが脱水症状となり、立ち昇る太陽が私を嘲笑うかのように現実を照らす。
トレセン学園夏合宿、最終日一日前。
最悪の終わりを迎えるであろうこの日は、最悪の形で幕を上げた。
今日起きる事の全ては私の想定内である。
ラジオ体操を終えていつものようにシンボリルドルフが挨拶をし、いつものようにエアグルーヴが小言を言う。昨日と変わらない光景だ。
但し、実質的な合宿最終日の今日はこれに秋川やよいの訓説が加わる。
それからそれからようやく解散となり、晴れてウマ娘達は最後の思い出作りを始めた。この日だけは誰もが日頃を忘れるのだ。日夜トレーニングに励む者達も休息と安息の日を謳歌する。
という中、私は海の家で手伝いに従事していた。好きでやっているわけではないが、嫌いなわけでもない。ただ、仕事としてだ。
例年この日は海の家の売上が7倍にまで伸びるらしいが、繁忙も10倍に達するらしい。そんな事を知ってか知らずか秋川やよいは私に手伝いをしてほしいと合宿前に依頼を出した。秋川やよいからの依頼なので私は二つ返事で了承した。
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