ハーメルン
詐欺師トレーナーはトレセン学園で信頼を集めて大勢から大金を奪うつもりのようです
詐欺師トレーナー、秋川やよいとデートする②
天気晴朗なれども波高し。
気温はやや低く、風は少し強い。
日々の激務に追われてまともな休暇を取っていなかった秋川やよいを休ませたい。駿川たづなからそう頼まれた私は、これに乗じて秋川やよいとの距離を近づける策を立てる事にした。
その策の第一段階は秋川やよいを学園から引き離す事だった。そこで私は幕張で開催される大規模なウマ娘に関するイベントについて監修を依頼された、という嘘を駿川たづなにつかせて別の職員によって車で送迎させた。すぐにバレる噓ではあるが、秋川やよいの性格上、この嘘はバレても問題ないという判断に至った。
方向的には全く同じであるため気づけず、幕張よりも手前で降ろされた秋川やよいは状況が飲み込めていないようだった。
「困惑!? ここは何処だ!?」
「ここは臨海公園駅の前です」
「君は……鵜海君がなぜここに? 君は確か今日休暇を取っていたはず……!」
「はいそうです。私も休暇を取りました」
走り去る車、独特な雰囲気の駅前、潮風、遠くに見える千葉の有名な遊園地。それらを一巡し最後に私の姿を見てようやく何かに感づいたらしく、そのポカンと開いた口が閉じない。それから地団駄を踏む姿はまさしく子どもというか、幼いというか、実に悔しそうだった。
「た〜づ〜な〜! 図ったな!」
「申し訳ありません。幕張の話は嘘です」
「くう〜! そういう事か!」
「たづなさんを責めないでください。今回の計画は全て“私が立案したんです”」
損な役回りをしているのは私だ。これくらいの手柄があっていいだろう。同時に全ての責任を負うのだから、釣り合いが無くてはいけない。
「……嘘は頂けない! だが、その気持ちはとても嬉しく思う。ありがとう!」
「……では行きましょうかやよいさん」
また秋川やよいの口が開いたままになった。
「今、なんと?」
「では行きましょうかやよいさん、と」
「や、ややや、やよいさん、というのは?」
私は跪いて秋川やよいと同じ目線になった。こうして囁かれる言葉には真実味が増す。
「良いですか、これは休みです」
「う、うむ。それは承服している」
「理事長、というのは仕事の呼び名です」
「それは確かにそうだ。では、秋川さんで良いのではないだろうか? その、下の名は……」
ここで私はわざと表情に影を作った。秋川やよいが敏感に反応しているのが良く分かる。
「てっきり、私はそう呼んでも受け入れられると思っていたのですが。私の思い上がりでした」
「え?」
「勝手な話ですよね。貴方にはそれくらい信用してもらえているとばかり」
「あ、いやその……」
「では水族館に行きましょうか“理事長”」
ここで私は背を向けて前に行こうとする。するとそれを呼び止めるように、私の袖が掴まれた。
「ま、待ってくれ。少し驚いただけだ! それに君からそう信頼を想ってくれてとても嬉しい」
誰しも、自分への信頼を向けられると嬉しく感じ、それを裏切られたと感じると悲しいものだ。秋川やよいは今、私から勝ち取った信頼が些末な事で失われようとしている事に危機感を抱いているだろう。上司として部下の信頼に応えたいというのは当然の事だ。
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