ハーメルン
Arco Iris
麻帆良の朝は熾烈を極める

麻帆良学園都市

それは埼玉県麻帆良市に存在する。
明治初期に創設されたこの学園は幼等部に始まり、果ては大学部までを網羅する一大学園都市である。すべての学術機関が一つの土地に集まっており、敷地内の面積は莫大な広さを誇る。多くの学生が在籍するこの学園は、朝の登校時に大混雑を起こし、一種の名物にさえなっているほどである。本日も遅刻をするまいと、大勢の生徒たちが通学ラッシュを乗り越えんとしていた。

そんな朝の風景を取材するべく、ニュース番組が麻帆良学園にやって来ていた。生放送のこの番組は間もなく中継が始まり、この麻帆良学園の通学ラッシュをお茶の間に届けることになっている。

「まもなく中継入ります!」

テレビスタッフの声が響く。レポーターの女性はマイクを持ちカメラの前に立つ。耳につけたイヤホンからスタジオの音が流れ、レポーターの女性の名を呼ぶ声が聞こえていた。

「はーい!こちら現場の中野です!私は今まさに通学ラッシュ中の麻帆良学園に来ています!ご覧ください、物凄い数の学生さんが学校を目指して駆けていきます!」

言葉と共にカメラの前を学生たちが通過する。一目散に駆けていく生徒もいれば、カメラに気付きピースサインを送る生徒もいる。

「噂には聞いていましたが、想像以上の光景です!通り過ぎていく生徒一人一人が活気に溢れています!私にもあんな時代がありました!」

レポーターの私情が挟まったような気もするが、中継は順調に進んでいく。

「出来ればどなたかにインタビュー出来ればいいのですが…」

レポーターが取材に応じてくれそうな学生を探し始めるが、怒涛の勢いで流れていく生徒たちはなかなか捕まらない。そんな中、カメラに気づかずに小走りで前を通り抜けようとした少女にレポーターは声をかける。

「すみませーん!今お時間よろしいですか?」

「はーい?なんですか?」

声をかけられ少女は足を止める。見るからに天真爛漫といった風貌で、オレンジ色の髪をツインテールにし、後ろを二本の三つ編みでまとめるといった特徴的な髪型をした少女だった。

「あれ、カメラ?あ〜!もしかして取材ですか!」

「そうなんです!現在生中継で麻帆良学園の通学ラッシュをレポートしているんです!」

「にゃはは〜、今日はいつも以上にセットに気合い入れといてよかった〜!」

声をかけた時から笑顔を絶やさず明るく答える少女。取材スタッフ、そしてテレビの前の男たちは瞬間恋に落ちた。いつの時代も男とは単純なものである。

「通学中にすみません、少しだけお時間よろしいですか?」

「もちろんですよ!あっ、自己紹介します!名前は椎名桜子!所属はチアリーディングとラクロス部で、もうすぐ16歳になりま〜す!」

右手を上げて元気よく自己紹介をする桜子。レポーターの女性は桜子のパワーに若干引いている。

「す、すごい元気な生徒さんですね…それでは早速なんですが、通学時に苦労したことなどありませんか?」

「う〜ん、そうですねぇ。ギリギリに行こうとすると今以上にブワ〜っと人が来るんで、そういう時は大変かなぁ」

「今以上にですか⁉︎それは凄そうですね」

[オッハー!オッハーー‼︎]

(…?)

なにやら少し遠くで背の高い男子学生を中心に騒いでいるが、これだけ学生がいればそういうこともあるだろうとレポーターは気にせず、インタビューを続けることにした。

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