右腕が機械仕掛けのユウキ
神託を受けた時、コッコロは間違えようの無い特徴だと思った。だがこうして実際に出会い、目の当たりにしてみると、それは如何に精巧に出来ているのか、一目では判断のつかないものだった。
彼女達が今いるこの深い森の木々が織り成す薄暗さの影響もあるのかも知れないが、何かの制服のような上着の袖を捲くり、黒い革のグローブを外してみても、到底作り物とは思えない。
だからだろうか。当の本人すら、その腕の違和感に気付いていないようだった。
いや、それは記憶の大半を失っている影響もあるのだろう。
彼は、人間らしく生きる為に最低限必要なもの以外の、殆ど全ての記憶を持ち合わせていなかった。
彼個人の事で分かる事など、名前くらいのものだ。どこから来て、何をすべきなのかも分からない。一緒に転がっていた、赤い複眼と金属質な触覚の付いた、青い虫のような兜の使い道も意味も。何故右腕だけが作り物になっているのかも。
謎だらけの男だが、神と崇める存在からのお告げによって導かなければならない。それが彼女の望みで、その為に彼女は存在している。
「ご不安ではございましょうが、これよりはわたくしめが共に歩み、お導きします。我が主、ユウキ……ジョウジ様」
「あ、あぁ……」
兜を抱えたままに戸惑った表情の男は、訳も分からないままに首を傾げ、コッコロを見るばかりだった。
※
「はぁー……ヤバいですね」
ペコリーヌの一言は妥当だった。コッコロは唖然としながら思った。
魔物の群れに追われる少女を目にし、即席のパーティとして助けに向かった彼女達だが、前線要員として奮闘していたペコリーヌの隙を突いた敵の魔の手が、後方に退避していた少女とコッコロに迫った時、ユウキ・ジョウジが飛び出して右腕一つで庇ったのだ。
間違いなく大怪我、良くて骨折、悪くて切断ものだ。誰もが言葉を失った。
だが違った。
ユウキ・ジョウジの右腕は盾で受け止めたかのような金属音を鳴らし、魔物の牙に耐えていたのだ。
そのまま彼は敵を投げ飛ばすと、本能的な動きなのだろう、腰のポーチからカセットを取り出して右腕に挿し込み、瞬く間に三日月の刃が着いた手甲へと変化させた。
「パワー、アーム……そうだ、これはパワーアームだ」
ユウキ・ジョウジは確かめるように振るい、飛び掛かる魔物を殴り倒して追い払うと、そのままペコリーヌと共に前線へ並び立った。
「守らなければ。この力、この腕はその為のものだった筈だから」
「よく分かりませんが、守る事には賛成です! 一緒にやりましょう!」
「あぁ、一緒に」
二人の奮闘で、魔物の群れは退散し、難を逃れる事が出来た。だが、コッコロにとっては仕えるべき主の謎が新たに増えた瞬間だった。
彼女は、そして誰もが気付いていなかった。主から預かった物としてコッコロが抱えていた青い兜の複眼と額の装飾が、パワーアームの起動と呼応するように僅かな輝きを帯びていた事に。
※
フルダイブVR技術を悪用した洗脳を行う組織があるとの情報を得て、栄光の十一人ライダーが一人であるライダーマン・結城丈二は捜査に乗り出していた。
だが、その彼自身が機械の呪縛に精神を囚われ、現実世界への帰還を果たせなくなるとは、誰が予想出来ただろうか。
アメリカはアリゾナ州南部ソノラ砂漠近郊にある仮面ライダー1号・本郷猛のアジトの一室、ハイテク機器に囲まれたまま眠りに就く盟友の姿を前に、仮面ライダーV3・風見志郎は苦い表情で見やるしかない。いくら科学者仲間や捜査関係者が解析を急いでいるとは言え、無事に帰ってこられるのかどうか、確証は無いのだ。
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