ハーメルン
身に覚えのない「妻」と「娘」を名乗る不審バの狭間に
「おかえり」
「……それは、解釈違いです……」
地の底から響いて来るような低音。
どろどろと言葉の中に何か暗い感情が渦巻いているような、背筋が冷えるような声。
「デ……デジタル君?」
「タキオンしゃん……」
まるで幽鬼のように、ゆらりゆらりと身体を揺らすデジタル君。
「私は、大抵のカプを許容してきました。解釈違いだとしても、それもウマカツだねと笑って流してきました……でも、今回ばかりは……」
そして彼女は、息を大きく吸って、そして。
「公式がッ!! 解釈違いッ!! ですっっ!! なんですかメインヒロインのその体たらくは!!」
「えーっ!? いやきみ、うちのモルモット君は怪我人なんだけ……」
「そこに正座してください!!」
「はい……」
何故私は突然叱られているのだろうか。
それより、飛んでいったモルモット君は無事なのだろうか。
しかし勢いに押されるまま、廊下に正座する。
何故か正座させた本人も、玄関の硬い床で折り目正しく正座していた。
「いいですかタキオンしゃん! 今日という今日はお説教させてもらいますっっ!」
普段から妙な挙動をしているし、温厚なので忘れがちなのだが。
何かに本気になったデジタル君は、ものすごく怖いのだ。
頭が痛い……。
あれ……私は一体……。
暗闇に閉ざされていた意識が、ゆっくりと覚醒する。
そして―――。
「―――おや。目が覚めたかい」
「アグネスタキオン……?」
ここ最近知り合った、私の妻だと名乗るウマ娘。
あれ、おかしいな。先程まで……どこにいたっけ?
「多少の混乱状態にあるようだね。意識を取り戻したばかりなんだ、あまり無理をしない方がいい」
身を起こそうとしたところで、腕を掴んでぐいと引き起こされる。
「ほら、椅子に座って。リラックスすべきだ」
促されるまま、見慣れない部屋のソファに腰かけた。
「さて……自分が何故ここにいるかは? 思い出せるかな?」
優しく、確かめるように彼女は訊く。
癖がありながらも、穏やかな口調。
胡散臭いものがあるが、しかし耳障りの案外良い、そんな声色で。
「ちなみに、気を失った君をここまで運搬したのは私だよ。故にきみが思い出すべきは、『何故』『いかにして』ここにいるかだ」
ずきずきと鈍痛がする頭をどうにか回して、考えを巡らせる。
確か私は、病院から退院して……。
「……あ」
「ふぅン、ことの経緯までどうにか思い出せたようだね」
思い出せはしたがその結果、何故自分がこうして『部屋の中』で倒れていたのか分からないということも判明した……。
「どうして、部屋の中に?」
我ながら阿呆のような言葉を捻り出したものだと思う。
「奇妙なことを訪ねるね君は」
それはそうだろう。本当に聞きたかったのは、何が起きてここで気絶していたのか、だ。
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