第四話 奇跡
「なんだと……!?」
最終コーナーに向けて加速を始めたシンボリルドルフは、己の目を疑った。
先に落ちてきたのが、セイウンスカイ。
ハルウララは、さらに加速し、最終コーナーを回る。
この瞬間。
皇帝の計算は、すべて狂った。
「バカな…!?掛ったのか、セイウンスカイは…!?」
ここで落ちてくるのはハルウララ。
そのハルウララを外目から抜き去り、そうして皇帝の神威。
そうイメージして走っていた。
そうなるはずだった。
『絶対』に。
「くっ……!!だが、負けん!!」
計算は狂ったが、それでもまき直しは図れる。
ハルウララが予想以上にいい脚を持っていただけだ。
セイウンスカイはそれにペースを崩され、落ちてきただけだ。
まだ抜ける。
ハルウララの代わりにセイウンスカイを抜き去り、そうして領域を展開、神威。
ナリタブライアンと最後の直線で勝負。
そう、なるはずだ。
「……行くぞ!!」
予定より数テンポ遅れて、抜け出し準備を始めるシンボリルドルフ。
加速のために強く踏み込むその豪脚は。
普段よりも、僅かに冴えない輝きで放たれた。
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「なんてこと……!!」
シンボリルドルフや、ナリタブライアンを除いた先行集団のウマたちが、目の前に垂れてくる光景をグラスワンダーは見た。
ほどよく自分の進路が塞がってしまうような形。
このままパワーで間を抜ける?
それとも大外から一気?
…否。
そんな技術は、まだ持っていない。
加速は望めない。
領域に、入れない。
…厳しいレースになってしまった。
……いや、そもそも他の子が垂れてくるのが早すぎる。
実力的に秀でるシンボリルドルフ達はともかく、彼女たちだって最終コーナー前で落ちてくるほど駄バではない。
ならば、なぜ。
私の『睨み』が効きすぎている?
……いや。
違う。
セイウンスカイも落ちてきている。
その先を、衰えぬ足で、ハルウララがひた走っている。
まさか。
まさかこれは。
そういうことなのか。
「………ウララさん…!!」
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『さあ有マ記念、残すところあと400mを切った!!』
『先頭はハルウララ!!ハルウララだ!!』
『しかしセイウンスカイが沈みかけているバ群は!!』
『さらにハルウララをも呑み込もうとする!!』
『最終コーナーを上がって最後の直線だ!!』
『中山の直線は短いぞ!300mの攻防だ!!』
『先頭は依然ハルウララ!!』
『しかし外からシンボリルドルフ!!』
『内からはナリタブライアン!!』
『さらにグラスワンダーも上がってくるか!!』
『二の矢をつがえてセイウンスカイも再浮上!!!』
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