11 風神の目覚め
「よ、アイネスフウジン。奇遇だな。…話がある」
「…立華トレーナー?」
俺は最終週の選抜レース、その最終レースである芝1600mに出走登録を済ませたアイネスフウジンを見つけて声をかけた。
今日に至るまでに、アイネスフウジンを掬うための準備は整えてきた。
彼女は急に声をかけられ、しかしその相手が見知った男、自分の事情を漏らしてしまった俺であることに気づき、若干眉根を寄せている。
「何?…もしかして、この間の話の続きなの?」
「そうだ」
「そうだ、って……前も言ったでしょ。同情なら、やめて」
はっきりと、前の話の続きをする、と断言する俺に、アイネスフウジンは辟易して一歩、距離を取る。
前にも言ったはずだ。感情的な同情で選んでほしくはないと。
選ぶなら、結果を見てからにしてほしいと。
そんな思いが見て取れる、一歩半の距離。
だが俺はすでに決意を固めている。この程度ではひるまない。
肩に座ったオニャンコポンがニャー、と鳴くのを指先で軽くたしなめながら、言葉を続ける。
「ああ、前も聞いた。そのうえで、これは俺の我儘だ」
「我儘?」
「そう、我儘。…俺は、君ほど走れるウマ娘が、事情があるにせよ…デビューできない、レースを走れないなんて許せない。そう思った」
「…何言ってるの?」
「君は走れるウマ娘だ。きちんと鍛えれば勝てるウマ娘だ。俺が君を見て、そう判断した。───だからまず君をこの選抜レースで勝たせる。そしてメイクデビューも勝って、重賞レースも勝って、GⅠレースも勝たせる。俺にはそれができる」
俺はまくしたてるように、言葉を並べた。
並べた言葉に嘘は一切ない。
アイネスフウジンならできると思っているし、俺なら出来ると思っている。
ウマ娘と本気で話をするためには、絶対に嘘はつかない。俺の信条だ。
「…………言葉では何とでも言えるの。でも、貴方は新人のトレーナーでしょ?」
アイネスフウジンが、俺のその言葉を受けて、さらに距離を取った。
当然だ。俺はまだ何の実績も上げていない新人トレーナー。
そんな奴が、甘い話をして一方的にまくし立てているのだ。
警戒するのも当然というもの。
「……あたしはレースに向けてウォームアップしてくるの。……もう、邪魔しないで」
ここまではまぁ、想定通り。
だから俺は、プラン通りに事を進める。
「…言葉じゃ信じられないよな。そりゃそうだ。だから、脚で語ることにする」
「……どういうことなの?」
「第5レースの芝2000m。第6レースのダート1600mを必ず見てくれ。俺のアドバイスを受けていた子たちが走る。君の同級生の、エイシンフラッシュとスマートファルコンだ」
「…え!?フラッシュちゃんとファル子ちゃん!?あの二人が!?立華トレーナー、貴方、何を…!?」
「アドバイスしただけさ。その結果を、今日、レースで俺に示してくれることになってる」
「…あの、二人が…?」
アイネスフウジンは、目の前のトレーナーの口から急に友人の名前が飛び出してきたことに驚きを隠せないでいた。
しかもその二人はあのエイシンフラッシュとスマートファルコン。
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