君が僕を呼ぶのなら、押し通るよ。
僕はソファーに座って考えていた。あの後、二人にはなんでもないと言って家に帰ってきたが明らかに何かあると気付かれているだろう。
「テイオー……。」
レースが終わり、勝利者インタビューで語ったテイオーの言葉を思い出す。
『ボクが次に出るのはURAファイナルズ。今回は条件さえ満たしていればどのウマ娘でも大丈夫な大規模レースになるように頑張ってお願いしたんだ。』
『だからお願い。来て。ボクとレースをしよう。ボクは君と勝負がしたい。』
『ボクはこのレースで君を超える。そして今度こそ……。いや、これは今言うことじゃないね。』
僕が知っている明るいテイオーとは違って、ただ静かに。そして何かを待ち望んでいるテイオーの姿がそこにはあった。
待っている。テイオーは最後にそう締めくくった。きっと僕に向けてそう言った言葉。あの後に軽く調べてみてわかった、世間は帝王のポーズと言っているポーズ。あれは僕の製作者が僕にくれたものだ。
偶然被っただけじゃないかと思ったが、細部までズレなくポーズをとられたら、それは偶然とは言えないだろう。
「僕は……どうすれば。」
「ラモ。大丈夫か?」
「あ、お兄さん。僕は大丈夫だよ。」
悩んでいると隣に上島さんが座る。その目は明らかにこちらを気遣っており、心配されていることがわかる。
「話したくなければ言わなくていい。だけどラモがよかったら、俺にその悩みを教えてくれないか?」
上島さんの手が僕に伸びてきて僕の頭を撫でる。その手は僕が思っているより大きくて、ざわついていた心が落ち着いていく。
「それじゃあ、僕の悩みを聞いてくれる?」
「ああ、話してみろ。例えそれが嘘八百でもしっかり解決できるか考えてやるから。」
「……ありがとう。あのね、テイオーがとっていたポーズって昔に僕がレースで勝った時に使ってたポーズなんだ。」
「そうか。」
「だからテイオーが言っていた君って人は多分僕のことだと思う。別にこれは勘違いでもなんでもいい。」
「呼ばれてるなら僕は行きたい。だけど僕が行ってもいいのかな?」
「自惚れでもないけど僕がレースに出れば勝つ。短距離もマイルも中距離も長距離もその全てをその気になれば大差で。」
「そうだな。」
「それはレースに向けて頑張ってるウマ娘たちの努力を無駄なものだと言ってるような気がするんだ。それにテイオーに会うだけならレース外でも出来るし。」
「それがラモの悩みか?」
「うん。それが僕の悩み。」
「なら俺の考えを話させてもらうぞ。まずラモの考えは彼女たちにとても失礼だ。その考え自体が彼女たちを舐めていると言っていい。」
下を見ていた顔を上げて上島さんを見る。そこには先ほどのこちらを心配していた目ではなく、トレーナーとしての目をした彼がいた。
「確かにラモは強い。きっと今からG Iレースに出ても勝てる確率の方が圧倒的に高いだろう。だが、そんなウマ娘がいるから仕方ないって諦めるウマ娘はいない。きっと誰もがレースで当たればラモに勝つために全力を尽くす筈だ。次にラモとレースをする娘たちも必死にラモに食らいつくだろう。スピードで負けるなら策略でって感じだな。そんな彼女たちが申し訳ない気がするから出ませんって言われるとどう思う?」
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