君が僕を呼ぶのなら、押し通るよ。
「これで!届い……っ!!」
あと少しというところであの子が消える。飛び込むように走ったせいで体勢が崩れ芝の上を転がってしまうが痛みは感じない。
「うっ、うう……。うわぁぁぁぁああああ!!!」
「うわぁぁぁぁああああ!!!……はぁ、はぁ、夢……か。」
寮の一室。そこでボクは飛び起きた。身体は汗だくで不快感がある。チラリと隣を見てルームメイトのマヤノが起きていないことにホッと息を吐く。彼女も最初は起きていたが慣れたのか最近は起き上がらなくなった。
「また……、ダメだった。あの子の影さえ踏めなかった。」
ボクはこの世界と似たような世界にいた記憶を持っている。だけどその世界のボクは自分の意思で全く動けなかった。動けたとしても同じ所で同じ動きを繰り返すか、トレーナーに操られてる時だけ。だけどあの子だけは違ったんだ。
トレーナーに操られてる時は流石にダメだったけど、あの子はボクたちとは違って自由に動いていた。そして動けないボクによく話しかけてくれた。そんなあの子の言葉や動きにボクは救われていたんだ。
ボクはあの子の名前を知らない。誰かがあの子の名前を呼ぶ時はノイズが入って聞き取れないから。だけどボクは別にそれでも良かったんだ、あの子の声を聞けるなら名前なんてどうでもいいって思ってたんだ。
それもあの日までだった。
『えっ?何で……?嫌、嫌だよ!助けて……、助けてテイオー!!』
身体が徐々にノイズに飲まれていくなか、涙を浮かべたあの子が必死に伸ばしたその手を……。ボクは掴み取れなかったんだ。
あの子が消えた日からボクはあの子を待った。この世界は突然今まで見たことがないウマ娘が出てくることがあったからだ。もしかしたらあの子もそんな風に出てくるかもと思って待ったんだ。だけどあの子は来なかった。
だから今度はあの子がなんで消えたのかを考えた。考えて考えて考えて考えて考えて考えて、一つの結論が出たんだ。
(そっか、きっとボクたちが弱かったからだ。)
この世界はトレーナーという見えない何かが支配している。その存在はボクたちを育てることやレースのハラハラ感などを楽しんでいるようだった。
ならあの子はどうなんだろう?育成はしなくていい。レースは勝って当たり前。なんならボクの前にライバルとして出て来た時もあった。その時がボクが一着を取らないといけない目標だったら詰み。
トレーナーもなんとかハラハラ感を味わいたくてあの子の作戦を変えたり、性能を弄っていたりしたけど結局はあの子が勝つ。
結果、酷くつまらないものになる。そしてそれを消す力がトレーナーにはあった。だから消した。
だけどもしここでボクがあの子に勝っていたらどうなる?トレーナーはハラハラ感を満足に味わえてあの子を残していたのではないか?
それがボクが前の世界が崩壊する最後に出した結論だ。もう全て手遅れだけどね。
けどそれは違った。ボクはまた世界に産まれた。思い出せたのはボクがトレセン学園に入る一年前だったけどね。
それも記憶を思い出せただけで身体能力はこの世界のままだった。前の世界の身体能力なら他の全てをぶっちぎって勝てる筈なのに。
思い出して暫くしたらボクの身体の中には魂とは別のものがあるのに気付いた。それは何本もの鎖でギチギチに縛り上げられていて簡単には解くことが出来ない。
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