ミント風味の触れあい
楽郎が「自作レジストやってみっか!」と意気込んでお酒とエナジードリンクのブレンドを作り始め、出来上がったものを飲み干して「お、これさわやかな風味が乗って普通に美味いな」と評した直後、バッテリーが切れたかのように昏倒したのが数分前の事。
玲は、そんな彼氏を横抱きに抱え、運んで、ソファにそっと横たえる。実家を離れてからも日々の鍛錬を怠らなかった意味はここにあったと言っても過言ではなかった。
(楽郎くん、大丈夫なのでしょうか……)
寝室からブランケットを持ってきて彼の身体に掛けながら、玲の頭の中は楽郎への心配で埋め尽くされていた。
楽郎は「失敗してもぶっ倒れる程度らしいからへーきへーき」と軽く言っていたが、普通に考えて目の前で急にぶっ倒れられて心配するなと言う方が無理な話。
アルコールとカフェインの飲み合わせが良くないことは、玲も聞いたことがある。ましてブレンド相手は全てのエナジードリンクを過去にしたと悪名高きあのライオットブラッド。通常はアルコールの吸収率が上がるだけのハズだが、あっと言う間も無いノックアウトを目にすれば『体内で謎の化学反応が起きてアルコールが大量発生!』などという幻想すら可能性の内に入ってしまう。
明日は普通に大学の講義がある。
二日酔いで彼が学業に集中できない。そんな事態は、斎賀玲にとって末代までの恥であった。
(なんとか、しないと…!)
斎賀家には、ぶっ倒れるまで酒を呷るような戯けた呑み方をする者は存在しない。つまりはこういう状況に対する玲の経験値は零に等しいが、知識をかき集めて自分に出来る介抱手段を模索する。
(二日酔いを抑えるには水分の接種が大事だったはず…)
テーブルの上のコップに目を向ける。彼が用意していたコップの中には水道水が既に注がれている。
飲んで直ぐに倒れた彼が水を飲む暇は無く、一口もつけられていない。そして、既に意識の無い楽郎の口元にコップを近づけたところで飲むはずもなく。
口に入れてさえしまえば、肉体の反射で飲み込ませられるのだが。
つまり、どうにかして、水を彼の口に含ませなければ。
斎賀玲の誇りにかけて。
なんとしてでも。
(―――、…!)
玲は静かに意を決し、そっと、水の入ったコップを手に取った。
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「ぬうぅ………」
ずきずきと少し痛む側頭部を手で押さえながら、ゆらりと起き上がる。直前の記憶は―――ちゃんとある。俺は自作レジストを試そうとしてビールとライオットブラッド・アンデッドを混ぜてみたものの、案の定失敗作で華麗に気絶をキメたわけだ。
アンデッドのキャッチコピーに則りぶっ倒れても直ぐに復帰できないかと一縷の望みをかけたわけだが…時計を見るとしっかり一時間くらい経っている。いや、過度の飲酒でぶっ倒れて起き上がるまでの時間を考えると早い方か…?
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