ハーメルン
転生したらアーサー王だった男がモルガンに王位を譲る話
転生したらアーサー王だった男がモルガンに王位を譲る話
天啓。意味は神様が人に真理を示すこと。
しかし僕に齎された啓示は、断じて神性に連なるモノから与えられたものではない。
僕に示したのは僕自身だ。正確には僕の内から迸った、前世の記憶である。
そう、前世だ。僕には前世の記憶がある。今から遥か未来の、名もない誰かの人生。そこに付随する経験や知識、思想などを思い出してしまった。
だがそうなっても僕は僕のままだった。いや、正しく言うなら僕は最初から僕だった、というべきかもしれない。前世の僕の影響を受けて今の僕が変わったのではなく、前世の僕が記憶を失くしたまま今までの僕は存在していた。謂わば前世の記憶が欠けていたピースで、それがふとした拍子に僕のなにかに嵌まっただけなのだろう。
だから唐突に前世を思い出しても、僕は混乱しなかった。
むしろ今まで感じていた違和感の謎が氷解し、納得したものである。なるほど道理で、と。道理で僕は今まで何を食べても不味いと感じていたわけだ。
食事は、今生では単なる栄養補給でしかない。素材の味を楽しむと言えば聞こえは良いが、素材の味しかしないものを食べ続けるには、前世の僕は美味いものを食べ過ぎていた。
なぜ未来から過去に転生したのかなんて事、考えても仕方がないのでどうでもいい。だが僕の生きた前世は今よりもずっと先の未来で、飽食の時代の平和な国だった。そんな国で生まれ育ち、何不自由なく育った嘗ての僕が、記憶がないとはいえ雑で貧しい食事に満足できるわけがない。必然、今生の僕は食事に苦痛を感じ続けていたのである。
とはいえ贅沢は言えない。僕の生まれ故郷であるティンタジェルは、他所の村よりマシでも貧しい部類だ。生きていく分には困らないのなら、食事に文句を垂れるわけにはいかなかった。
何より食事に文句をつけている場合でもない。僕が前世を思い出すと、僕は自分の置かれている境遇に気づいてしまったのだ。――僕の名前はアーサー。ティンタジェルのアーサー。騎士エクターを養父とする、遠くない未来でアーサー王と呼ばれる者だ。
なんの因果か、僕はアーサー王物語の主役として転生してしまっていた。なぜとか、どうしてとか、そんな疑問は全て脇にどけて。自らの置かれた状況に適応するために、僕は行動しないといけなくなっていたのである。さもないと僕は――課された使命に殺されてしまう。
僕は死にたくなかった。王様になんてなりたくない、戦場に出て人を殺したりもしたくない。王様として誰かに死ねと命令するのも、誰かに命を狙われたりするのもゴメンだ。
前世の記憶を取り戻した事で未来を知った僕の心にあるのは、自分の運命に対する悲嘆の念だ。前世で暇つぶしに読んでいたアーサー王伝説の顛末は、未だ記憶に新しい。逃げ出そうにも養父は僕を逃さないだろうし、マーリンという存在も僕を王の道へと駆り出すだろう。魔術というものが現実に存在するらしい事を知っていた今生の僕は、マーリンの脅威を明確に感じていた。
アーサー王伝説は、架空の物語であるはずだ。過去の世界で実際にアーサー王がいたなんて想像したこともない。ましてや魔術なんてものが実在するだなんて、たちの悪い冗談と思いたかった。
だが実際にあるのだ。前世を思い出す前の僕は、夢の中で度々
女
(
・
)
の
(
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)
マーリンから剣術の指南と、帝王学、軍略、風の魔術を教わっていた。そしてそれらを現実でも使用し修行している。
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