ハーメルン
転生したらアーサー王だった男がモルガンに王位を譲る話
世界一のメシウマ王女が爆誕したお話
「万能の願望器など人の手には余る。誘惑に負けて災禍を齎す前に破壊しておくべきだ」
ブリテンの最高意思決定機関にて会議が始まり、最初に発言したのはアーサーである。
強い理性と確かな知性を元に、彼は明確な危機感を示した。
願いを叶える器、確かに魅力的だ。しかしそれを一度でも用いれば、人の理性は容易く破壊され、何度となく聖杯を求めるようになってしまうだろう。そうなれば、どんな悲劇が起こるか。
語るまでもない。聖杯は血で血を洗う惨劇を齎すだろう。であるならば、そうなる前に破壊しておくべきだ。『王騎士』を自称するも『騎士王』としか呼ばれない男の言は全く正しい。
「発言してもよろしいか」
しかし、人としての正しさだけで世の中は回るわけではない。
彼の意見に挙手して反対意見を出したのは、円卓第四位の席次を有する騎士ラモラックだ。
彼は極めて武勇に優れた男で、ガウェイン、アグラヴェイン、ガヘリス、トリスタンの四人掛かりでも三時間持ちこたえるほどの実力者である。アーサーに対する忠義心は円卓でもトップクラスであり、彼のためなら命を投げ出すことも厭わぬ豪傑だ。
そんなラモラックがアーサーに反対意見を出したのを、円卓外の騎士になら意外に思う者もいるだろう。だがラモラックは騎士王に忠誠を誓っているとはいえ、思考停止したイエスマンではない。王のためなら諫言も辞さぬ直言の士でもあるのだ。
「許可する」
円卓に席を持たぬとはいえブリテンのトップであり、議長を務める女王モルガンが発言権を与える。
ラモラックはモルガンに目礼した。彼は女王に対しても敬意を払い、女だからと侮ることなく忠実な姿勢を見せている。そんな彼をモルガンも高く評価しており、『真に英雄たる騎士の一人』だと絶賛していた。
「我が王の言は性急に過ぎるかと。万能の願望器、聖杯なる物の真贋はさておくとして、真実如何なる願いをも叶えるというのなら、使用回数に制限を定め利用した後に破棄すべきでしょう。尤もその聖杯を誰が、どのように、そして何度使用できるのかは不明ですが」
一理あると円卓の誰もが頷いた。
たった一度の使用すら避けるべきだとしたアーサーとは異なり、最終的には破棄すべきという点には同意しても、一度も使わずに捨てるには余りに勿体ないという意見は理解できる。
アーサーもその意見の正しさを認めた。彼特有の『上手い話には裏がある』という思想を、誰しもが共有して意思決定を行えるわけではないのだ。
続いて挙手したのは円卓第十二位の席次を有するベティヴィエールだ。発言が議長に認められる。
「――意見を述べさせていただく前に確認しておきたいのですが、件の聖杯を入手したのは第一王女殿下でよろしいのでしょうか? また、聖杯なる物の力が真のものだという確証は?」
「ベティヴィエール卿、それには私が答えよう。聖杯を手に入れたのは間違いなく我が娘であり、我が娘から献上された聖杯を私が解析した。故に断言しよう、聖杯は真の願望器であると。単なる魔力リソースとしてしか機能しない贋作や、無色の魔力で満たさねば機能しない『人の力の及ぶ範囲での奇跡』しか起こせない紛い物とも違う。これは『願えば文字通りなんでも願いを叶える神の奇蹟』の具現、神の子の血を受けた本物の聖杯だ」
ベティヴィエールの疑問にモルガンが答える。
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