ハーメルン
紅蓮の使徒
3話 新たな始まり

 アスナが旅立つ決意を固めてから早三日。
 両親や祖父に決意を伝えると意外にもあっさりと認められ、淡々と旅立ちの支度を進めていた。
 話をする前は『反対されないだろうか』と不安もあったものの、『まあアスカもいるならば』という事であっさりと受け入れられた。
 確かに経験ある者の同伴は心強いのだが、男女の旅に対する心配などはないのだろうか。色々と思うところはあったものの、話をした立場である自分があれこれ言う必要はないために余計な口は挟まなかった。
 今は着替えやポケモン達に使用する道具などの身支度に加え、カントー地方へ向かうためのチケットの確保など必要な準備をしている中で、またしてもアスカが突如前触れもなく現れたのだった。

「アスナー。そろそろ出かけるけど、大丈夫か?」
「ん? 出かけるってどこに?」
「えっ」
「えっ」

 目的地を告げない彼に行先を問うと、アスカは『何を言っているんだこいつ』と言わんばかりの目でアスナを凝視する。

「いや、昨日の夜に話しただろ。アスナのトレーナーIDの登録をするって」
「ああ。そういえばそんな事も話してたっけ」

 トレーナーIDとは文字通りその人物をポケモントレーナーとして識別するための番号の事だ。
 これはトレーナーカードというポケモントレーナーの身分証を発行する際に自動的に登録される。このIDを正式に登録する事でポケモン通信システムを利用したり、ポケモンバトルにおける賞金の獲得および管理、ジムバッジの登録などが行う事ができるようになるトレーナーの必需品であった。

「これをやっておかないと最悪トレーナーとして認められないんだからな? 下手すれば『自称ジムリーダーの孫娘』って補導されるぞ。しっかりしてくれよ」
「自称じゃないもん! 本当だもん!」
「俺はちゃんとわかってるって。まあ、そんな訳だからお昼前には出ようぜ。早めに戻ってきてご飯の時に報告したいし」
「そっか。了解。で、それってどこで登録するの?」

 振り返ってみれば今まではトレーナー見習いとしてポケモンを持つ事はあっても正式なバトルなどは経験がなかった身だ。そのためこういった制度の事などもアスナは知らない。
 一度経験した彼ならば知っているだろうと、アスカにそう疑問を呈すると――

「役所とかでもできるけど、アスナの場合遠くの地方に行くからな。向こうの話も聞きたいしちょっと遠出をしようと思う。俺の旅立ちの場所に行ってみるか」

 アスナは昔を思い返し、そう口角を挙げた。



◇◆◇◆


 フエンタウンからずっと南に位置する、自然に囲まれた街、ミシロタウン。
 建造物が少なく、静かな街だ。その開けた場所の上空に空飛ぶ巨体が一つ旋回していた。そのポケモン――カイリューは主の指示を受け、街の開けた場所に移動するとゆっくり高度を落とし、音を立てる事無く着陸する。
 地面に両足がしっかりついた事を確認し、背に乗っていたアスカは軽快にカイリューの背から飛び降りた。

「久々だな。ありがとな、カイ。お疲れ様」

 愛称で呼び、カイリューの頬を優しく撫でる。するとカイリューは心地よさげに瞳をつぶり、主に甘えるのだった。

「よしよし。また帰りもよろしくな。さて、おいアスナ。お前も早く降りて来いよ」

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