11. 冥府の書
仄暗く冷たい空気が流れる。
いや、そもそもそれは空気なのだろうか。
そこは全ての生命を唯一平等にする場所、冥界。
そしてほんの一握りの人間にしか発露しない、生きながら冥界に行ける能力、第八感。
本来、瞬はその力を使わずとも冥界に入る事が出来る。
彼の片割れの魂はハーデスであり、冥界を統べる王神。
ただ、この依代は聖闘士としての行動を優先し、冥王として振る舞う事を極力避けてきた経緯がある。
己自身の強大な小宇宙をもって第八感を使う。
そうして死の拠所たる冥界に生者たる瞬は降り立った。
「瞬様」
「こんな時間帯に帰ってこられるとは珍しいですね」
瞬の小宇宙に気づいた、人骨の形をモチーフにした鎧を纏った男達や、修道女の如き服装の女達が次々と挨拶する。
冥闘士と呼ばれる、平時は冥界・特に地獄を管理し、神々の闘いともなれば戦力になる者達だ。
当初は敬称をつけないでくれと頼んだが、いつまでたっても止めてくれないのでそこは諦めている。
もっとも聖闘士最高位でもある瞬は聖域でも同じ扱いをされる為、今更というのもあるが。
「こんばんは、皆さん。少し調べたい事があるので、寄らしてもらいました」
「寄るなんておっしゃらずに。ここはあなた様の本来の住処なのですから」
聖闘士を辞め、冥王に収まれと片割れの魂が訴える。
しかし依代の条件として「聖闘士は辞めない」と当初から伝えているのだから、そこは引かない。
瞬間移動で第一獄・裁きの館に到着すると、担当獄卒のマルキーノが出迎えた。
「ルネ様に用事がおありで? 今は丁度亡者が来てないので、お話出来ると思いますぜ」
敵として対峙した当時と違い、今は丁寧な態度で接してくる。
「ありがとう、それではお邪魔しますね」
正門の扉をゆっくり押し開け、館の中に入る。
地獄に堕ちるほど悪行を働いた亡者の魂を裁き、しかるべき罰を与えるに適した獄へ落とす。
それがこの館の主の代理人、天英星バルロンのルネである。
「瞬か、珍しいな。何故ここに来た?」
「ここ数か月間に亡くなった方の情報が欲しくて、閻魔帳を調べさせて貰いたいんだ」
閻魔帳には地獄のみならず、大半が向かう不凋花の野に堕ちた者の魂も記載されている。
「地上で何があったのだ?」
ルネが訝しげに尋ねる。
「氷河が挑発的な小宇宙を追いかけた先に、喋る死体があったんだ。さらにその死体の状態が亡くなった時期と一致しなかった」
「それで堕ちた先に本人に聞くのか」
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