ハーメルン
かわいそうなのはぬけない
VS時間停止グッズ

「やっぱ納得いかねぇ」


放課後、地域伝承研究会の教室。
怒り混じりのぶすくれた声が、部屋の中に小さく響いた。


「……まだ言ってんの?」


それに応えたのは、窓際でアルコール臭のする謎の水を傾けていた少女――酒視心白だった。
どこか表情に乏しい彼女は、しかし明らかに面倒臭いという顔でアルコール臭い溜息をひとつ。イライラと貧乏ゆすりを繰り返している幸若舞しおりに目を向ける。


「もういい加減トゲトゲすんのやめたげなよ。ダウナーだけどふつーに良いヤツじゃん、ヤシロちゃん」

「信じられるか! だって淫魔だぞ淫魔! 淫らで変態で性欲の強い魔と書いて淫魔だぞ!?」

「その字面だーいぶ主観入ってますけどー?」


ギャンギャンと噛みつくしおりを適当にいなしつつ、心白は彼女が荒れる原因となっている少年をほんのちょっぴりだけ恨んだ。



天成社――つい先日、とある事件の際に知り合った男子生徒だ。
彼は心白達の親友である華宮葛を性的被害に遭う直前で救出した、いわば彼女達にとっての恩人とも言える存在である。

……しかしながら、彼の種族には大きな問題があった。
催眠や催淫能力を自在に操り、異性と交わり吸精を行う習性を持つ『淫魔』。
それが社の正体であったのだ。

おまけにその力も強大で、葛達三人の力でもってしてもまともな勝負になるかどうか。
そんなまさに女性にとっての天敵とも言える彼であるが……葛と心白の二人は、ごく自然にその存在を受け入れていた。

社に恩を抱いている事や、その性格が(ヘタレで小心者が先に来るが)善良だという事もある。
だがそれらよりも、彼の吸精に直接的な性行為の必要が無い事が何よりの理由だろう。

葛の生み出す華の蜜を舐めるだけで腹を満たせてしまう彼は、淫魔でありながら女性にとってほぼ無害という非常に稀有な存在であったのだ。
……まぁ、葛にはある意味被害が出ているのだが。それはさておき。

そして当初は多少なりとも気を張っていた葛と心白も、経過観察対象として接する内に警戒するのも無駄だと悟り、殆ど友人関係に等しい状態となっていた。

特に葛が大きく絆されており、今では地域伝承研究会にも招き入れようと提案する程となっていたのだが――そこで全く流されていなかったのが、変わらず社に厳しい目を向け続けるしおりであった。




「なぁ、もっかいだけあの淫魔のウラ洗い直さね? やっぱこれまで一回もヤッてねぇとか嘘くせぇって」

「もー、何度やれば気が済むのさ。ヤシロちゃんの過去はもう完全マルマル裸にしちゃったでしょ」


心白はうんざりとそう言うと、ふうと白い靄を吐き出した。

とろりとした重さを持った、酒精――霊力を含んだエチルアルコールの吐息。
それはしおりの目前まで流れると長方形に薄く伸び、幾つもの文章を映し出す。


『天成社。種族・自称淫魔。十六歳男性。
孤児。生後間もなく神庭医院前に置き去られていたとの事で、中学校卒業までは施設暮らし。なんとひっそりぼくとオナチュー。
現在は南歌倉男子寮に入居しており――……』


そこに並んだ内容は、詳しく纏められた社の来歴であった。

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