8日目 髪の色
『いめちぇん!』と彼女ははにかみながら笑っていた。それがきっと、全てを物語っている。そして、唆したのはファーデンだ。
最悪なのは──中途半端に斑に、みすぼらしく髪が染まったリリィをシーグリッドが見てしまったことだ。
おそらくきっと。いいや、間違いなく。シーグリッドはリリィの穢れが最悪の状態になってしまったと勘違いしたのだろう。
この世のものとは思えない大絶叫。耳が潰れるほどの金切り声を上げた彼女は、文字通り発狂して異形化した。
で、それを見たシルヴァも発狂して異形化した。あのシスコンが、耐えられるはずが無かったのだ。
そこからはもう、酷かった。発狂した二人は文字通り狂って見境なく暴れまわり、あっという間に周囲を更地に変えてしまった。敵味方の判別も付いていないようで、騒ぎに群がってきた穢者を瞬殺するだけでは飽き足らず、互いに取っ組み合いでの殴り合いを始めた。
こっちとしては巻き込まれないように逃げ惑うのが精いっぱいだった。わんわん泣いて動けなくなったリリィを小脇に抱えていたヘニールが今日一番の功労者だと思う。今日ほど彼の縄捌きに感謝したことは無い。
最終的に、シーグリッドについてはゲルロッドとユリウスと村長殿で、そしてシルヴァについてはミーリエルで動きを止め、私とイレイェンで意識を刈り取ることで二人の異形化を抑え込んだ。誰か一人でも欠けていたら、被害はもっと大きくなっていたことだろう。
何とかなったあの瞬間、私たちの心は確かに一つになっていた。あれほどまでに安堵したのは、ひょっとしたら初めてかもしれない。
リリィは泣き疲れて眠っている。イレイェンに抱き着き、彼女の胸に顔を埋めながら。なんだかんだでイレイェンは面倒見がいいし、女連中の中では最もリリィとの距離感が相応しいように思える。優しくリリィの頭をなでる彼女からは、聖母の慈愛が確かに感じられるのだ。
すべてが終わったら、きっと白巫女の役割も無くなるのだろう。その暁には、私は周囲の反対を押し切ってでもリリィを魔術師の道へ進ませようと思う。少なくとも聖職者の道よりはリリィの情操教育に良いは……
……いや、魔術師にもろくでもない前例がいる。いざと言う時は、私とユリウスでリリィに剣を教えるしかない。この世は本当にままならないものだ。
──貴公のその判断は正しい。大なり小なり魔術師はみんなファーデンみたいなやつばかりだ。リリィに剣を教える時は遠慮なく呼んでほしい。
──聖職者も軍人も、みんな頭が固いったらない! ジョークの一つも理解しないとは!
──うるせえクソやろう。お前、こうなるかもしれないってわかってたな?
──ごめんなさい。この人、昔からデリカシーがないんです……。あと、魔術師みんながこうってわけじゃないんです……。一部が凄く悪目立ちしているだけで、ちゃんと探せば普通な人も少しはいるんですよ?
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