クリスマスの正しい祝い方
「しばらく経ってからのことである」にはちゃんと理由がある。それまでに私には重要な仕事がまず一つあったからだった。一応言っておくのだが、それは犬に化けたシリウスをシャンプーでワシャワシャ洗ったことではない。
何が楽しくてシリウスのシャンプーをしなければならないのだ。それを聞いて嫌な顔をするシリウスが面白かったり、また一つ生きるのに忘れたい出来事を作ってやったりするだけではないか。我ながら哀楽がせめぎ合う案件だ。
さておき、今日は計画その1の集大成を迎える日だった。
「随分なはしゃぎようだな、シリウス」
「お前だけには言われたくない」
パーティ帽子を頭に被った彼はまさにノリが悪そうな返事をしてきた。その手前ではパーティ帽子をシリウスに被せた私がバルタザールの扮装をして腕を組む。なんだ、乳香を献上して欲しかったのか?
「神聖の象徴がお前に似合うのか…?」
「何を考えてそうなったかは知らんが、その言葉はそっくり返させろ」
「いくら羨ましがられてもバルタザールは譲らぬ。おとなしくガスパールとメルキオールから選ぶといい」
「やはりそれは東方の三博士だったか!」
シリウスが思いっきり顔を顰めて何か言いたげになったあたりで私は両手で耳を塞ぐ。あわせて歌い出すのは讃美歌130番『よろこべやたたえよや』である。運動会の表彰式でお馴染みのアレだが、どうして表彰式に定番なんだろうな、この曲。
「急に歌い出すな!」
「クリスマスだというのに讃美歌が許されないだと…?」
「ブラックさーん、それはダメですよー」
ギルのマイペースなツッコミが隣室から飛んできた。彼はそのまま知恵の実をかたどった飾りを入れた箱を部屋の隅まで運んで、また去っていく。次に出てきたのは羊飼いの杖をかたどったキャンディーを持ってきたリーマスである。
「さすがに賛美歌を非難するのはいただけないかな」
「セブルスはこれでも敬虔なんだ…」
輝く小さな星々を表す小型電球のたくさんついたコードを引っ張ってくるピーターがぼそりと言った。
「セブルスー、聖ニコラスとオーディンと天使はどれにしますかー?」
「オーディンはやめろ、オーディンは」
それでは生贄ではないか。なぜ選択肢に北欧神話を混ぜた。いや、確かにクリスマスツリーの伝説としては聞く内容ではあるが。
「不穏になるから人型の飾りを木に吊るすのはやめなさい」
「そうですかー。では上の飾りにしますね」
最初から最後まで同じテンションで言いながら戻るのがギルである。
「…セブルス、たまに聞きたくなるけど、君は何を言っているんだ?」
とてつもなく長いコードと格闘していたピーターに聞かれ、片眉を上げる。ふむ、みんなだいたい分からなくともスルーしてくるのでこれは新鮮だ。彼はこういうところが長所だと私は思うぞ。
「クリスマスツリーの由来となったもみの木は、元は北欧神話で信仰される樫の木から新しい信仰対象となったとされる。もともと樫の木には生贄を捧げる風習があったと言われているな。主神のオーディン自身も木に首を吊り、槍に突き刺された姿で自らを生贄にしたという話もある」
「…それじゃあ、なんだい。ギルは槍の刺さった首吊り人形を吊るそうとしていたわけだ」
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