クライム・ファイターズ
僕は今、何も見えない暗闇の中で白杖だけを頼りに歩いている。
でも、実際はそうじゃない。
まず、外は明るい筈だ。
夕方ぐらいだろうか、まだ太陽が赤く光っているだろう。
何も見えないのは夜だからじゃない、僕の目が見えないからだ。
そして、白杖だけが頼りな訳でもない。
僕には優れた嗅覚、聴覚、触覚があって……まるで蝙蝠の様に音の反射から物の位置がはっきりと分かる。
……僕の名前はマット。
マシュー・マット・マードックだ。
ヘルズキッチンで、弁護士をやっている。
目元にはサングラスをかけているけど、僕が目を見えないとしても相手に違和感を与えない為に付けているものだ。
だから盲目でも、サングラスは無意味な物ではない。
僕は、ドアを開けて自身の弁護士事務所に入る。
ここは『ネルソン&マードック』。
親友であり、仕事仲間でもあるフォギー・ネルソンとの共同事務所だ。
僕の職場でもある。
まるで見えるかの様に滑らかに歩き、自身の席に腰を下ろす。
……ここでは他人の目を気にする必要はない。
本来なら僕自身の超感覚さえあれば、白杖すら要らない。
こうやって、見えずとも、見える以上に分かるからだ。
…………誰か、居る。
隣の部屋に隠れている……いや、隠れていると言うより、無警戒に突っ立っている。
でも、フォギーの訳ないし、カレンの筈もない。
彼等は僕が事務所に来れば間違いなく挨拶をする。
それに、今日はそもそも休日だ。
ただ、少し気になることがあって僕が個人的に来たに過ぎない。
だから。
「誰だ?」
僕は声をかけた。
そして、白杖に手をかける。
この白杖は……盲目の僕を演出するための小道具……ではない。
武器にもなる。
僕の声かけから、その何者かが動くのに気付いた。
「よぉ」
声、男の声だ。
そして、それには聞き覚えがあって、そして居ないはずの人間だった。
「フランク?」
「パニッシャーと呼べ」
くつくつと笑いながら、男が僕の前に立った。
フランク・キャッスル。
通り名は『パニッシャー』
犯罪者を殺しまくって、逮捕された筈だが。
「何故ここに?」
「そりゃあ、お前にも情報を分け与えてやろうと思ってだ。感謝して欲しいぐらいだ」
「情報?弁護士に対して犯罪者が何の情報をくれるって言うんだ」
僕はこの男と面識があった。
何なら、何度か共に戦ったぐらいだ。
でもそれは、マットとしてではない。
僕は……。
「デアデビルに、情報のお届けだ」
「それは」
彼が僕の目の前に紙束を投げた。
「……あぁ、すまない。見えないんだったな、読んでやる」
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