私は、君の役に立てていただろうか。
──もしも、私が君の一部だったら。一つの要素を担っていたのならば、私はもっと君の役に立てるはずなのに──。
あれ、ここは……。
目が覚める。意識がはっきりしてくると同時に感じる頭の下にある手の痛みと、硬くなっている自身の身体。そして目の前に映る書類とパソコン。どうやら私は自分の机の上で眠ってしまったようだ。
パソコンを確認すれば、既に終了している仕事の画面。見直してもおかしい箇所はない。
それを見ると、段々と思い出してきた。今日は私の担当アイドルの誕生日。その誕生会が今晩あるということで、それに参加するために死ぬ気で仕事を切り上げて、そのまま疲れて眠ってしまったんだ。
時計を確認すると、誕生会開始の一時間前。私の体内時計は思っていたよりも優秀らしい。片付けをして、人前に出れるようにある程度容姿を整えてからそのまま会場の方へと向かう。
会場に近づくと、そこには会場を作っている多くのアイドルたちや事務員さんたちがいた。
「あ、菜々さんのプロデューサーさん!」
そのうちの一人が私に気が付いたみたいで、声を掛けてくる。その声でみんなが私に気が付いてくれたみたいで、口々に声を掛けてくる。お疲れ様ですと労いの声を掛けてくる子もいれば、折角の担当の誕生会なのにどこにいたのかと少し責めるような口調の子もいる。忙しかったんだと反論できなくもないが、ここに居る人全員が自分の仕事をこなしつつこうして準備をしてくれる素晴らしい人たちばかりなのだから、何も言えない。今日のこれだって私が企画したわけではなく、それぞれが動き出してくれたんだから。
今まで申し訳ないと謝罪をして、自分も何かできることはないかを聞いて、準備に参加する。既にもう会場は完璧に出来上がっているといってもいいだろう。後は漏れがないかのチェックと、小道具や料理の準備などだ。
今日の主役の菜々さんは、今日はお休みだ。だけど今日の夜に仕事の話があるということで事務所に呼び出している。そこをサプライズで祝おうというのが流れだ。サプライズ、といっても毎年恒例のようなものであるので、本人も薄々察してくれているのかもしれない。
色んな子と話しつつ、準備を進めていくにつれ、徐々に時間が迫ってきている。周りの人たちにも言われ、そろそろ到着するであろう菜々さんを迎えに行くことになった。
時間も時間ということもあって、自然な程度に静かになっている廊下をあるき、入口の方へと向かう。もう既に着ていたようで、そこには菜々さんが軽装で私を待っていた。
もしや待たせすぎてしまったか──? と思い謝罪をする。
「いえ、ナナもさっき来たところですから!」
心優しい笑顔で返される。一部のファンからは聖母と語られることがある、どこか幼さを感じられる優しい笑み。
──そうだ、この笑顔。私はこの笑顔に何回も救われてきた。どんなに辛くてきつくても、この笑顔をしてくれる菜々さんがいたから──。
……何を考えている。今はそんなことを考えるような時間じゃない。それより今は、菜々さんを案内しないといけない。
では、あっちの会議室で行いましょう。案内しますと声を声を掛け、会場の方へと向かう。見ると、ちょっとソワソワしてる菜々さん。まぁ、敢えてお祝いのお話をしないでここに来たし、やっぱり分かっていそうだ。
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