第2話 傍迷惑な逃避行
「着いたぜ。ここが会場だ。」
案内役に導かれるままハンター試験の会場があるザバン市に来た貴方は、目の前にある巨大な建築物を見上げた。
なるほどたしかに、世界中からプロハンターを目指す者達が集うだけあって立派な建物だ。外面には異質な紋様が刻まれ、只事ではない雰囲気を醸し出している。
貴方がこれから始まる試験への期待を膨らませていると、横から案内役の声がかけられた。
「おい、そっちじゃないぜ。こっちが会場だ。」
盛大に梯子を外された貴方は、彼が指した方を見やる。
………。
どう見てもただの飲食店だ。そこそこ繁盛しているようだが、ハンター志望者がいるようには見受けられない。
「志望者は無数にいるってのに、試験会場があからさまじゃ困り物だろ? こうやって隠すのが正解なんだよ。」
なるほど道理だと貴方は頷いた。次はこの店の秘密を暴き会場に辿り着く事が課題なのだな。
固く秘匿されたメンシスの儀式や漁村の秘密を暴いてきた貴方だ。今更このような小さな店で隠そうと貴方の敵ではない。必ずやその秘密を白日の元へ晒してやろう。
「違う違う! もう品定めは済んでるんだ、俺が案内するからあんたは大人しくしててくれ…。相変わらず急にネジがブッ飛ぶ奴だな。何の話かもよくわからんし…。」
違ったらしい。
やはり秘密は甘いものだ。隠されていると聞けばつい暴きたくなってしまう。何度恐ろしい死を遂げようと、愚かな好奇は忘れ難いらしい。
貴方は案内役に連れられて店に入る。
「おっちゃん、注文だ。ステーキ定食1つ、弱火でじっくり頼むぜ。」
勝手に注文された貴方は、案内役に文句を垂れた。
肉を焼くなら、強火で炙って中は生焼けくらいが1番美味いのだ。血の滴るミディアムレアこそ至高なり。
「…これが合言葉なんだよっ! いいから早く奥へいけ!」
小声で怒鳴られた貴方は、そうだったのかと軽く謝罪して奥の部屋へと向かった。
「あんたといると酷く疲れるな…。まあとにかく、“使える”あんたなら試験はおそらく余裕だろう。合格したらまた狩りを手伝ってくれよ。じゃあ、達者でな。」
貴方の感謝を受けた案内人は、陽気に手を振り部屋を立ち去って行った。
ハンター試験の会場へ向かっていた貴方は、道程で害獣の被害に遭う街に出くわしたのだ。そこで現地のものに依頼を受けた貴方は、穢らわしい獣どもを残らずメッタ斬りにした。
この依頼者こそハンター試験への案内人であり、見事彼のお眼鏡に適った貴方はここまで案内を受けてきたというわけである。
獣の死骸があまりに惨かった事を少々咎められたが、もはや獲物の血を出来るだけ多く浴びようと斬り刻むのは貴方に染み付いた癖であり、あるべき狩人の正しき姿でもある。やめられるものか。
貴方がテーブルに着くと部屋全体が揺れ出した。どうやら部屋ごと地下へ降っているらしい。
貴方は気分を良くした。エレベーターは好きだ。ショートカットが開けられる。
目の前には鉄網の上でステーキが焼かれている。まずは試験前の景気付けといこう。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク