第9話 さようなら流魂街
とはいえ歩くこと既に二日目です。流石に少し疲れてきました。秋の少しひんやりとした空気が火照った身体に心地よいくらい。
「まさか、本当に宿賃が必要になるとは思わなかったわね」
昨日に泊まった安宿のことを思い出します。
瀞霊廷は貴族と死神の為に造られた一つの都市ですが、かといって全員が"高慢な貴族"みたいな振る舞いをしているワケではありませんから。
建物の造りなんかは璃筬よりずっと立派ですけれど、大衆的な酒屋や食堂なんかもちゃんとあります。
この辺はどうやら、護廷十三隊の各隊に影響されているみたいですね。区画ごとに各隊の縄張りみたいなもので、部隊の特色が反映された街並みになっているようです。
その部隊を慕う人たちが集まるわけですから、当然といえば当然ですね。
――ってことは、戦闘集団な十一番隊の近くには、闘技場とか拳闘場がわんさか……? い、今は考えないことにしましょう!
「死神になれたら、このめちゃくちゃ広い瀞霊廷の道も覚えなきゃならないのかしら?」
少なくとも各隊の隊舎の場所とかは覚えておかないといけないでしょうし。それに付随して周辺施設なんかも。引っ越し先の市役所や郵便局、公共施設なんかの場所を覚えておくような感覚ですかね?
「……あ! あれ、よね?」
そんなことを考えながら彷徨うことしばし。ようやく目的の場所を発見しました。
外観だけみれば、そこはまるで大きな屋敷か、はたまた小さな城とでも言うべきか。周囲の建物にも負けぬほどの建造物。
入り口近くには守衛とおぼしき人が立ち、門には"真央霊術院"と大きく記された看板もあります。
「何か?」
私に気付いたのでしょう。守衛の方が声を掛けてきました。
「私、霊術院の入学試験を受けに来た者です。書類もここに」
そう言いながら風呂敷を開き、入学手続きに使った書面を守衛に渡します。相手はそれを受け取ると、しばし記載内容に目を通してから顔を上げました。
「なるほど、確認しました。では案内しますのでこちらに」
よかった、ここで"書類に不備があるのでまたお越し下さい"とか言われたらどうしようかと思いました。
案内されるままに、霊術院の中に入りました。
「こちらでお待ちください」
「ありがとうございます」
あの後、守衛から学院内の関係者へと話が通され、その関係者に案内されて学内のとある一室に通されました。部屋の造り自体は簡素で、畳敷きの床の上には机と座布団が並んでいます。
「……待合室? それともここで試験もやるのかしら?」
室内には私以外は誰もいないので、どうしたものかと思いつつもとりあえず座って待つことしばし。
やがて試験官らしき男がやってくると「試験は中庭で行う」とのことで再び移動です。
「しかし、この時期に試験を受けに来るのは珍しいですね」
「え? そうなんですか?」
移動の途中、そんなことを言われました。
話を聞くと、試験を受けに来るのは解禁初頭と終了間際が多いそうです。
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