11:星屑たる所以
「──どうして、どうして私は勝てないの?」
その日、温厚なミライが初めてサブトレーナーの俺に対して怒りをぶつけてきた。
チーム・アルデバランの模擬レースで、連続最下位という不名誉な記録を更新し続けることに不満を抱いたのか。
あるいはチーム・アルデバランの"落ちこぼれ"として周囲から揶揄われることに、心が耐えられなくなったのか。
普段と百八十度異なるミライの様子に、俺はかける言葉を失った。
「私もトレーナーも、こんなに頑張っているのに! 何で、何でわたしはこんなに遅いのっ!?」
ミライは爆発する感情に身を委ね、声を荒げる。
俺は何も答えられなかった。
「ねぇ、トレーナー。何か言ってよ。どうして私は勝てないの? どうせ分かっているんでしょ!?」
悪意や不条理に晒され続け、削ぎ落とされる形で剥き出しとなった負の感情の矛先が、俺に向けられる。
ミライに胸ぐらを強く掴まれた。
ウマ娘の力に対して、人間である俺は抵抗することが出来ない。
「みんな……みんな私のことを、グズで鈍間なウマ娘ってバカにする。言いたい放題言って、速く走る方法を誰も教えてくれない」
俺の知るミライは、誰に悪口を言われても、理不尽な悪意を向けられても笑顔を絶やさないウマ娘だった。
我慢の、限界だったのだろう。
「……」
俺は、ミライの心の強さに甘えていた。
そのせいで、彼女が年頃の女の子であるという認識にノイズがかかっていた。
「どうせトレーナーも、心の底で私のことを笑ってたんでしょ? 負け続けても必死に笑う私を見て、嘲笑っていたんでしょっ!?」
身体が強く揺さぶられる。
「……」
この期に及んで俺はまだ、彼女にかける言葉を必死に探していた。
「ねぇ……何か言ってよ」
思い切り身体を手前に手繰り寄せられた。
昏く濁ったミライの瞳が、俺の眼前に迫る。
「お願い、だからぁ……っ」
そして、今にも泣き出しそうに双眸を滲ませるミライを見て。
俺は。
「…………俺は」
固く閉ざしていた口を開く。
「この選択が、最善だと思っている」
「………………え?」
「俺は、臆病な人間なんだ」
「言ってる意味が分からないよ、トレーナー」
意味が分からない、か。
そうかもな。
臆病な俺にしか、この言葉の意味は分からないだろうな。
「ミライは……どうしてレースで勝ちたいんだ?」
だから、少しでもミライが理解してくれそうな言葉に変えて、俺の意思を伝える。
「レースに勝つことが、お前にとってどんなものよりも大切なのか?」
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