ハーメルン
これであなたはサトノ家行きです
04:選抜レース

 今日は以前、理事長が口にしていた選抜レースの開催日だ。俺は首に入校許可証をぶら下げて、トレセン学園の門を潜った。

 別に、トレーナーに復帰するつもりなんて無い。

 選抜レースを観戦しないと、後々面倒なことになりそうだと思っただけだ(主に理事長と駿川方面で)。

「選抜レースのトラックは……こっちだったか」

 トレセン学園の敷地はまるで迷路のようだ。

 俺は守衛から貰った学園の見取り図を頼りに、トラックを目指す。

 しかし、ふむ……。

「ここは……どこだ?」

 困ったな。現在地が分からないと、どの方向に進めば良いのか判断がつかない。

 学園にいる者の大半は、選抜レースを観戦するため既にトラックへ足を運んでいるのだろう。周囲には人っ子一人見当たらない。

 腕に巻いた時計は十三時四十分を示している。選抜レースの開始時刻は十四時だ。

 あと二十分。

 別に、ウマ娘のレースが見たいわけでは無いのに。

 俺の中に()()が生まれてしまっているのは……どうしてだろうな。

「──おや? そこの君」

 俺がだだっ広いトレセン学園の敷地を彷徨っていると、背後から凛とした声音の女に声をかけられた。

 俺は背後を振り返る。

 俺の目線の先には、トレセン学園の制服に身を包んだウマ娘が立っていた。

(学園の生徒……にしては風格があるように感じる)

 腰丈の鹿毛の長髪をたなびかせながら、俺の方へと近付いてくる。三日月の形をした一房の前髪が特徴的な女だった。

 切れ長の瞳に見つめられ、彼女が声をかけた人物が俺であることを察する。

「入校許可証……ふむ。選抜レースを観戦しに来たのか? スーツに身を包んでいることから察するに、君はトレーナーかな? しかし、胸元にバッジが付いていない……」
「あ、えっと……?」

 何やら俺の容姿を観察し、女はぶつぶつと言葉をこぼしている。

「……ああ、すまない。つい一人で考え込んでしまった」
「えーっと……?」
「そういえば、まだ名前を名乗っていなかったな。私はシンボリルドルフ。トレセン学園で生徒会長を務めている者だ」

 シンボリルドルフ。そのような名前を、過去に一度聞いたことがあるような気がする。

「……おや? その様子だと、私の名前を知らないようだ」

 シンボリルドルフの様子から推測するに、彼女はそれなりに名の知れたウマ娘のようだ。

「……すまない」
「何、気にする必要は無いさ。少し珍しいと思ってね」

 トレセン学園の生徒会長だ。おそらく、かなりの強者だろう。あとでウマチューブで検索してみよう。

「これも何かの縁だ。見たところ、道に迷っているように感じる」
「実はそうなんだ」
「トレセン学園の敷地で迷子になる人が現れるのは、日常茶飯事だからな」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/7

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析