ハーメルン
アイビー
ピンクのアスター

「「『唯ちゃん』」」

幽はその場から走り去った。
幽の頭の中でフラッシュバックされる記憶。
唯と遊んだ時のこと。唯とプールに行く約束をした日のこと。
その全てが走馬灯のように流れてくる。
「うっ……」
吐き気を催すがなんとか堪えて走る。
しばらく走って落ち着いた幽は歩き始めるが、足取りはとても重かった。
(なんで……どうして……!)
幽は考える。唯が死んだという現実を受け止められずにいた。
幽は唯との思い出の場所に向かっている。唯の家だ。
唯は生きているかもしれない。そんな淡い希望を抱いて。
しかし、そんな願いは打ち砕かれることになる。
インターホンを押しても唯の母親が出てくることはなく、唯に昔渡されていた合鍵を使い唯の家へと入る。
できるだけ急いで唯の部屋へと行くとそこには唯はいなかった。
「唯……!」
幽の目からは涙が流れ落ち、膝をつく。
誰もいなかったのだ。

ふらふらと学校へ歩いて行って席へ座る。
唯の席は誰も座っていない。誰も。
周りだけがいつも通りで、私だけが違う。違うちがうチガウ。
それでも、いつも通りに唯は学校へきて、いつも通りに私と話して、いつも通りに帰って…いつも、いつもどおりに…。
そんなのはまやかしだとでもいうかの様に、私へ現実を突きつけるように担任が「花の入った花瓶」を持ってくる。
やめろ
頼むからそれを唯の席に置くな。おかないでくれ。お願いだから。
幽はそう願ったが、無情にもそれは置かれてしまった。
そうして担任は語りだす。
唯が昨日事故にあったこと。
唯が昨日重体で病院に運ばれたこと。
そして、今朝死んだことを。
幽はその言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
――
その後幽の記憶はない。
気づいた時には家に帰っていて、ベッドで横になっていた。
幽は泣きはらした目を擦りながら起き上がり、リビングへ向かう。
用意されていた料理を食べる。
私が好きなはずの料理は味がなく、
そうして気が付いた。
彼女が私は好きだったと。
焼けてでもいいからあの時手をつないでおけばよかったと。
もっと一緒にいれば良かったと。
後悔しても遅いのはわかっているけれど。
幽は部屋へ戻り、ベランダに出る。
空を見上げると星々が輝いていた。
あれだけきれいに思えた空も、月も何もかもが無価値にしか見えない。
どうしてももう手遅れだ。
何もかも無価値なのなら生きている意味はない。
リビングにある包丁を手に取って私は躊躇いなく自分の首へ刺した。





ボコボコと音のなるカプセル。それが佇む部屋の中で白衣を着た黒髪ポニーテールの女性がいた。
カプセルの中にはアルビノと思われる白髪の女性が浮かんでいる。女性はガラス越しに女性を見て微笑みながら話しかける。

「もっと「私」を見て。数多の私を。貴女の魂が私に染まるまで。私が染めるまで」
その声は誰に届くわけでもなく、ただ部屋に響いて消えた。




ーピンクのアスターの花言葉は『甘い夢』ー

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