……作るわよ、マンダで
「オイラこそが究極の芸術だァ! 喝!!」
それを遺言に、半径十キロメートルのクレーターを作る途轍もない大爆発を引き起こし、暁のデイダラは死んだ。サスケくんの血も涙もない機転によって僕らは助かったけど、時空間転移のため生贄にされた口寄せ契約の大蛇、マンダは黒焦げの死骸を晒す憂き目にあった。
大蛇丸様は焼け焦げたマンダの死骸を思案気に見上げていた。長年連れ添ったとはいえ、口寄せの蛇一匹の死に心を動かされるようなお方ではない。僕の人物評を裏付けるように、大蛇丸様は藪から棒に呟いた。
「……作るわよ、マンダで。満漢全席を」
困惑を隠しきれなかった、表情にしてしまった僕と、困惑に嫌悪感も混ぜた上で露骨に示すサスケくんを、順繰りに大蛇丸様は流し見た。
「デイダラは狩り終えた。俺は修行に戻る」
返答に迷う僕をよそに、にべもなくサスケくんは吐き捨てた。
「修行、修行ねェ……」
言葉尻の含みを感じ取り、サスケくんは剣呑な雰囲気を纏う。
「何が言いたい?」
「目的に至る因果は直線的とは限らないのよ。その深遠な連鎖がわからないというのなら、あなたもまだまだねサスケくん」
「わからないな。マンダで蛇料理を、それも俺がアンタと一緒になって作る必要がどこにある」
わからないな、をことさら強調し、挑戦的にサスケくんが言った。
大蛇丸様は口角を上げた。
「イタチくんは」
反応は劇的だった。僕は思わず一歩後ずさった。顔色を豹変させたサスケくんの、眼差しに宿る本気の殺意。先程まで殺し合っていたデイダラの最期、「儚く散りゆく一瞬こそが、美。つまり、芸術とは爆発だァ!! テメェらもアートを感じろ! うん!」と、独自の芸術論を展開しながら自分自身を爆発のエネルギーへと転換し自爆する、常軌を逸したその瞬間よりも、さらに危険なプレッシャーを感じる。
「イタチくんは作ってたわよ、万華鏡写輪眼で
────完璧な、目玉焼きを」
サスケくんの殺気をこゆるぎもせず真正面から受け止める大蛇丸様の、蛇のような瞳孔が、サスケくんを射抜いた。
「彼、上手よね、料理」
「………………………………だからなんだ?」
「ちっぽけなものに執着すれば、本当に大切なモノを見失うものなのよ……、本当の変化は、規制や制約、予感や想像の枠に収まっていては出来ないのだから……」
依然として口角を上げたままの大蛇丸様が放った深遠なお言葉に、いつもクールを装ってるサスケくんには珍しくあからさまな動揺を見せた。目は見開かれ、視線は空中を小刻みに彷徨っている。そして、何かを突然理解したかのように、呆然と呟いた。
「つまり……そういうことか」
フフフと大蛇丸様は声に出して笑った。酷く満足げなご様子だった。
「あなたにもわかるでしょう、カブト」
欲望に満ち満ちた眼差しを向けられてしまい、僕は窮した。
さっぱりわからなかった。
一体大蛇丸様とサスケくんは何を理解しあったんだ……?
いくら大蛇丸様の腹心である僕でも、交わされた内容が当事者同士にしかわからないようなものじゃ察しようはない。マンダで料理を作る発想が(この段階で僕の理解を超えている)、どう転べば一族皆殺しを犯したS級犯罪者うちはイタチが目玉焼きを作っていたことに繋がり、「本当の変化」なんて観念的な話に辿り着く?
僕が僕である以上、例え正直な胸の内が困惑の一色でしかなくても、取り繕った真顔を貫き大蛇丸様のご期待に沿う他に術はない。僕の脳細胞は大蛇丸様の深謀遠慮を読み解くべく、活性化し白熱した。
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