ハーメルン
……作るわよ、マンダで
……作るわよ、マンダで

 戦国最強の一角にして木ノ葉のエリート・うちは一族の末裔サスケくんと伝説の三忍である大蛇丸様、そしてその腹心の僕。このレベルの抜け忍が集まれば、実現不可能な事柄を探すほうが難しくなる。料理はあっという間に完成した。
 最後の仕上げに、僕は医療用のメスと千本を巧みに使って、肉の一片に薔薇の花のような飾り切りを施した。初めてやったけど、わりと見栄え良く出来た。繊細な作業は得意だし、嫌いじゃない。
「いい! いいわカブト!! すごく私好み……! あなたデイダラよりよほど優れた芸術家だわ……!」
「お褒めにあずかり光栄です大蛇丸様」
 今は亡き君麻呂と僕を伴い、木ノ葉崩しの前夜祭とばかりに四代目風影を不意打ちで殺害したときよりも、大蛇丸様は楽しそうだった。
 綺麗に盛り付けがされた豪華な卓を僕らは囲んだ。食欲をそそる匂いが鼻孔を擽る。
「サスケくん、あなたが音頭を取りなさい」
「……断る。アンタが自分でやれ」
「つれないね。デイダラ討伐の一番の功労者じゃないか。それに、マンダ様を殺したのはキミも同然だろう? お命いただきますも言えないのかい?」
 皮肉って促せば、サスケくんは眼力だけで射殺せそうな目つきで僕を睨みつけ、渋々、本当に渋々な様子で、両手を合わせた。
「……いただきます」
「いただきます」
「ククク……いただきます」
 僕とサスケくんが揃って箸を持とうとした瞬間だった。
「待ちなさい!!」
 心臓が止まった。死んだ。
 瞬間的に放たれた尾獣もかくやの膨大なチャクラと殺気により、大蛇丸様を中心とした風が一帯を吹き渡った。
 死神を見るような視線を、サスケくんは大蛇丸様に向けていた。
 僕は生きていた。信じがたくも、心臓は未だ拍動していた。
 僕に自分の死を克明に幻視させた大蛇丸様は、血酒の注がれるグラスを掲げた。
「順番を間違えてしまったわ。先に、乾杯をしましょう」
 冷や汗が鼻筋まで伝ってきて、ずり下がってしまったメガネを、僕は押し上げた。
「…………そ、そうですね」
「…………あ、あぁ」
 今度は素直に音頭を取ったサスケくんの「乾杯」で、ようやく宴は始まった。
 血酒を真っ先に飲み干した大蛇丸様が、料理にも真っ先に手を付けた。箸で口の中に放り込み、咀嚼する。蛇のような瞳孔がカッ! と開く。
 こ、これはッ!? ぐぁああああああ!! 雲隠れの雷遁忍術、感激波を全身に喰らったかの如く、旨味成分が脳幹部にもたらす電撃的な感激の波が全身の神経を駆け巡りッ──!! 記憶が、明滅して……!? ぐぅ! これは、これはァ……! 幻幽丸!?!? サスケェ!? イタチィ!? キミマロォ!? みたらしアンコォ!? 綱手ェ!? 自来也ァ!? さ、猿飛センセェェェエ!!!!! ………ッはぁ! あ、危ない、記憶が遡行するなんて……ウマすぎて、生まれ直してしまうところだったわ。
 僕はメガネを指先で押し上げた。自慢じゃないけど、僕ぐらいになると、恍惚とした大蛇丸様の心中を的確にお察しすることが出来る。
 箸をつけて、出来たての料理を口に運んだ。
 確かに、これは美味しい。幼い頃の記憶へと還りそうになる気持ちもわかる。
「味はどう?」
────カブト、味はどう? 口に合えばいいけど……実は私、お料理そんな得意じゃないから。
 きっと、そのせいだ。口の端を邪悪に吊り上げ、こちらの様子を窺う大蛇丸様が、なぜか孤児院のマザーと被った。記憶の中、不安げに微笑むマザーと。

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