ハーメルン
腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました
第六感

 ようやく、星漿体の身代わりのヒトガタが完成した。時刻は夕方、ちょうど保険代わりに甚爾が理子ちゃんを射殺する作戦を実行する時間だった。
 マッドさんと貴腐人さんからヒトガタを受け取り、感謝の気持ちを伝えていたその時――。

「……ッ!」

 尾てい骨辺りから首元までをゾワゾワとした感覚が駆け巡った。このなんとも言えない嫌な予感は、何か……取り返しのつかない大変な事が起こりそうな予感だった。
 この何とも断言できない第六感のような感覚に思わず腕を摩っていると、貴腐人さんは私の変な様子に声をかけてきた。

「推し様?」
「……あぁ、ごめんなさい。ちょっとボーとしちゃって」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、こらからが私の仕事だから」

 そうだ、私はこれから"これ"を持って宣戦布告をしに行かなければならないのだ。そんな大事な役割が待っているのに、こうしてボーッとしているだなんて彼らのボスとして相応しくない。

「でも、私達には1番あなた様の健康が――」

「バッハー!! フゥー!!」

 突然の発狂マッドさん。人って寝不足になるとこんな風に訳の分からないテンションになるんですね。私、学びました。

「……」
「……」
「マッドさん、寝かしつけてきますね」
「はい、お願いします……」

 とりあえず、彼にはしばらくゆっくりと休んでもらおう。私はそう心に誓って、彼の研究所を後にした。

 そして、高専へと向かうために、駐車場に止めてあった車に乗りこみシートベルトを締めた。未だ胸の中を燻る"嫌な予感"は消えることなく蝕んでいる。

「私は……彼らの頭領。ここで確認のために甚爾の元に行くことは……出来ない」

 きっとこの胸を蝕む嫌な予感は、私の唯一無二の相棒の事だろう。きっと彼は、彼に託した任務を全うして星漿体を連れ出してくれるだろう。でも――その後はどうだ?
 もしかしたら、軽くボコボコに五条の坊ちゃんや、そのお友達の子が仕返しに来るかもしれない。彼らが昨日までに見た実力のままだったら、きっと甚爾は勝てる。でも、"もしも"逆行を乗り越え、新しい力を手に入れていたら――。果たして甚爾は勝てるのだろうか?

「……信じ、ないと」

 甚爾の事はもちろん信頼している。それでも、この胸に消えない炎のようにジワジワと不安を煽る気持ちに蓋ができない。

 私は、一体どうしたらいいのだろうか?

 そう自問自答しても、答えは出ない。彼に対する信頼のために、私はこの第六感を無視するように頭を振ったその瞬間。

『本当に後悔しないですか?』

 ふわりと、滝夜叉姫が姿を現した。

「……滝夜叉姫」
『主様が後悔しないなら、わたくしは引き止めはしません。ですが、自らの予感を信じるのもまた実力』

 彼女はそっと私の手にその手を重ねた。

『わたくしはもう二度と、あなたの大事な物を亡くしたくはありません』

 脳裏に思い浮かぶのは、あの日の母の姿。

「長い物には巻かれなさい」

 そう言って私の未来を案じてくれた母。自らの死期が近い事を悟りながらも、子供のために立派にその道を示してくれた大好きな母様。

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