ハーメルン
腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました
相棒

◇ ◇ ◇
 
 そして、将門公からのアドバイス通りに私は神無月澪花として出来ることを続けた。すると、最初は敵意を向けてきたかつての後輩や、同職が困惑したように私を見る機会が増えた。
 敵意が少なくなったことによって、私の気持ち的にもだいぶ楽になった。いくら私でもかつての知人たちにずっと敵意を向けられるのは堪えるものがある。
 そして、片手で数えられるぐらいの人数であるが、裏表のない心で私と接触してみようと試みてくれる人も現れた。
 まず真っ先に連絡してきてくれたのは、後輩の九十九由基だった。彼女は私と同じ特級呪術師であり、現在は海外でこの世界から呪いを消す方法を探しているようだった。可愛がっていた後輩は、そうやって自らの信じた道を進んでくれているようで先輩は嬉しくなった。由基はあっさりと私の無実を信じてくれ、私の野望を決して笑いはしなかった。ついでに「先輩だったらやれると思いますよ」なんて言ってくれた。
 私たちは互いに何かあった際に、協力することとなった。
 由基と協力関係を結んだ後、調子に乗った私は数人の人物とコンタクトを取ることにした。自分で言うのもなんだけど、割と私の人を見る目は信用できる方だと思う。私の第六感に従い、この人は大丈夫そうだと判断した人物とコンタクトをとってみれば、今の現状に疑問を抱いている者、かつての私と同じように上層部の圧力に押されている者、様々なしがらみを持つ人達ばかり。そんな人物達と腹を割って話し合い、彼らの信用を勝ち取る事ができた。
 そして、私にできる事を初めて一年が過ぎた。伏黒花の一回忌、この日を境についに私はこの腐った呪術師界を変えるための大きな一歩を踏み出すことにした。
 ――それは、従来の高専を中心とした呪術師界とはまた違う新組織の設立だ。
 ついに、その時が来たのだ。こちらの組織に所属する呪術師の人材確保、医療班の人員確保、資金源、様々な問題があった。でも私はそれらの問題を全て解決し、ついにその計画を実行に移す算段まで来た。
 ただ一つの問題を残して。
『新組織の頭領として、一人己の背中を預ける相棒を見つけろ』
 これは将門公からの言葉だ。ただ、私は……未だにこの背中を預けられる人物を見つけていなかったのだ。
 私は将門公に「信頼は一朝一夕で得られるものではないので、とりあえず今は無理です」と言った。しかし、将門公はこの問題が解決するまでは組織の立ち上げは許可しないとまで言い切ったのだ。そこまで言われてしまえば、無理に計画を押し進めることなど出来るわけがなかった。
 一応仕事上での仲間は出来たし、もちろん仲間になる彼らの事は信頼している。でも、彼らは私の仲間であるが、唯一無二の相棒にはなれない。彼らに私の背中を安心して預けられるかと問われれば――答えは「いいえ」なのだ。
 相棒というのは互いの命を預け合う関係。
 私は呪術師界から、死刑判決を受けた人間。そして、この腐った世の中を変えるために反逆を起こそうと躍起になっている反逆者であるため、敵は沢山いる。そんな私の相棒になる人物だって、きっと命を狙われるだろう。
 私の背中を預けるという事は、この首を預けることと同意義。やはり、自分自身の首を預けられる人物は……今も昔も一人しかいない。
「……甚爾」
 目を閉じた時、真っ先に思い浮かぶのは甚爾だった。
 私がこの先、相棒として選ぶとしたら……きっとそれは甚爾だけなのだろう。甚爾と共に戦った学生時代、京都校との交流戦では安心して自分の背中を預けられたものだ。私はその時の高揚を、安心感を、未だに未練がましく恋しく思っている。

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