ハーメルン
腐った上層部にキレたので、第三勢力を立ち上げました
依頼
とある探偵事務所の応接室。そこには私ともう1人の女性が向かい合って座っていた。私の向かい側に座る私服の女性、彼女は自らの名前を黒井美里と名乗った。彼女の職業は星漿体のお世話係、そんな彼女は今回私たちに依頼を持ってきたのである。
『星漿体』それは高専の結界を維持している、天元様が数百年に一度"同化"を行うために選ばれた特別な人間だ。"特別な人間"と言えば聞こえはいいが、実際の所ただの人柱である。時代は既に2000年代に入っているのにも関わらず、未だに人柱を差し出して世の中の平和を祈るだなんて、何という時代錯誤なのだろうか。こういう所が今の上層部の特に悪いところ。時代は進んだ、人柱なんて方法を選ぶのはもう時代遅れなのに。
「それでは、理子お嬢様というのが、今回星漿体に選ばれたお嬢さんという事でいいですかね?」
「はい……そうです」
今回の依頼人、黒井さんは星漿体のお世話係の女性だ。元々一族が星漿体の世話係を務める家系らしく、本当は家業を継ぐつもりは無かったらしいが、幼い頃に両親を亡くしてしまった彼女に惹かれ戻ってきたらしい。それからずっと傍にいてきたようだ。
彼女が理子お嬢様の話をする表情から、彼女が本当に理子お嬢様を大切にしている事が伝わってくる。
「黒井さんにとって、理子お嬢様はとても大切な人なのですね」
「……はい、こんな私を家族のように慕ってくれている、優しい人です」
「そうなのですね。すみません、ここで一つ確認させて頂いても良いですか?」
私の問いに、彼女は「はい」と返事をした。そして姿勢を改めて正し、真っ直ぐと私の目を見た。そんな彼女に、私は問掛ける。
「理子さんは、生きたいと願っているのですか?」
「……っ」
彼女の目が見開かれる。そして、何かを言おうとしてハッと言葉を飲み込んだ。彼女のその態度に、この依頼は彼女自身が勝手に頼んだものだと察した。
「黒井さん。厳しい事を言うようですが、我々は生きたいと望んでいない子供をただ"他者の自己満足で生かす"という事は出来ません」
天元様と星漿体の同化。これは呪術師界において一大イベントと呼んでも差支えのない程の大きな話。もし、この世に一人しかいない星漿体が同化を拒否し、逃げるとどうなるか――。上層部は何としてでも"星漿体"を捕まえ、その身を天元様に捧げるのだろう。そこに彼女の意思なんて関係ない、一個人の願望よりも多くの人間の命を優先する。それはしょうがないことである。
「生きるということは、大変なことです。我々が命をかけてその命を救ったとして、本人に生きる気力が無ければ――我々が命を掛けた意味が無くなる」
呪術師界を欺き、生きることはとても大変なことである。それを、私は身をもって体験している。いつ何処で彼らに見つかるか分からない生活というのは、無辛く険しい道だ。私の場合は頼もしい旦那様が居たから、少しは心を休めることが出来たが……普通はそうはいかない。ましてや14歳という若さであるならば、胸を張って太陽の下を歩きたいだろう。
「私は組織の代表者として、軽はずみな気持ちでは依頼は受けません。彼女自身に"生きたい"という気持ちがなければ動くことはできません」
私の言葉に、黒井さんは黙って下を向いてしまった。数分間の沈黙、そして彼女は――顔を上げた。
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