ハーメルン
魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero
Another Mission <タバサの冒険-亡者と呪い人形> 後編
悪魔――その単語がアイーシャの口から出た時、タバサは眼鏡の奥にある目を僅かに細めていた。
それまでヨシアの語った村と翼人達の事情やのろけ話にも一切、関心を抱いていなかったのが一転し、アイーシャの話に興味を惹かれていた。
シルフィードは悪魔という言葉に唖然とし、あんぐりと口を開けている。その口から、竜としては可愛らしい顔に不釣合いな牙が覗けてしまう。
「あ、悪魔?」
ヨシアは一瞬、アイーシャの言葉がよく理解できなかった。
「わたし達はずっと、彼らに追われているのよ。……あの恐ろしい悪魔達に」
アイーシャはとても怯えた様子で、表情を曇らせだす。
翼人の氏族は古くからこのアルデラ地方の大森林に住み着いており、季節ごとに巣となる木を転々とし、今まで平穏に暮らしていた。
この近辺に巣を作る数ヶ月も前、遠く離れた別の場所の木で暮らしていた彼女達の元に突如、その異形達は現れたのである。
彼ら――すなわちこの世のものではない、異形の悪魔が。
そして、血に飢えた悪魔達は手加減も容赦も、否応もなしに翼人達を襲ってきたという。
「わたし達は彼らに襲われる度に住む場所を変えて逃げ続けてきたわ。でも、どこへ逃げても彼らはわたし達の居場所を嗅ぎつけて追ってくるの。もう何人もの同胞達が彼らの餌食になってしまったわ……」
悲嘆にくれるアイーシャは膝の上に置いた拳を握り締める。
「それじゃあ、その傷も……」
「そう。……三日前、あなたと森で別れた後よ。彼らがわたしを襲ったのは」
アイーシャは傷ついた己の翼にそっと手を触れる。痛みを感じているのか、僅かに彼女は呻いていた。
ヨシアは愕然とした表情で、力なく床に膝をつく。
「そんな……僕が、僕があの時に君と会っていなければ、こんな……」
「良いのよ、ヨシア。たとえあの時に襲われなくても、いずれはこうなっていたことよ。その時が早まってしまっただけ。これも大いなる意思の思し召しなの。だから、あなたが気に病むことはないわ」
自責の念に駆られるヨシアをアイーシャは優しく宥める。
「悪魔達はいつ姿を現すか分からない。昨日も彼らにあの木が襲われたの。森の精霊の助けを借りて何とか彼らを退けて、わたしもここへ来たけど、それももう限界だわ。わたしが無事にあの木へ戻れるかどうかも分からない」
「そんな! どうして!」
アイーシャは死を覚悟でヨシアに別れを告げにきたと言外に含められていることを察し、ヨシアは彼女に詰め寄る。
「きゅい! 命知らずも良い所なの! 奴らは精霊の力なんか物ともしない、とっても恐ろしい連中なんだから!」
シルフィードはアイーシャの話を聞くと、血相を変えて声を上げだしていた。
アイーシャもシルフィードの言葉に同意し頷く。
「そう。彼らには精霊の力はほとんど意味がないの。精霊の守りは平気ですり抜けてくるし、下手をすれば精霊が悪魔に恐れをなしてしまって力を貸してくれないのよ」
「そんな……」
アイーシャの告白にヨシアは衝撃を受けていた。自然に満ち溢れた力を行使するという先住の魔法が、悪魔には効かないだなんて。
「悪魔につけられたこの傷も、精霊の力では治し切れないの。彼らの力は精霊の力を蝕んでしまうから」
「でも、あなた達があの木を離れるってことはその悪魔達はこの村を襲ってくるんじゃないの?」
目先の獲物を失えば、すぐ近くに存在する獲物――すなわちエギンハイム村の人間達を狙って押し寄せてくるのではないだろうか。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/16
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク