ハーメルン
魔剣異聞録~The Legendary Dark Slayer/Zero
Mission 05 <這い寄る惨劇-Devil Trigger> 前編
スパーダがギーシュとの決闘に勝利したことで、生徒達の彼を見る目は変わっていた。
男子生徒は彼の剣を振るう姿にギーシュと同じように男として見惚れた者もいれば、メイジが剣に負けたということで彼を疎ましく思う者もいた。
女子生徒は大半がスパーダを平民上がりの貴族と見るようなことは無くなり、すれ違う時には「ごきげんよう。ミスタ・スパーダ」とそれなりの敬意を表して呼ぶようになっていた。
唯一変わらないものと言えば、広場などでたむろしている他の使い魔達はスパーダが通りがかると全てが恐怖と緊張で石のように固まってしまうことだ。
そして、生徒達の中で最も大きな変化を見せる者が一人いる。
「お、お手柔らかに頼むよ……」
昼過ぎのヴェストリ広場でギーシュは剣を両手で握り締めて震えていた。
距離を取って向かい合うスパーダはリベリオンを片手に佇み、ギーシュを見据えている。
先日の約束通りにギーシュとの剣での再戦を受け入れたのだ。
とはいえ、行われたのは戦いというよりもスパーダがギーシュを指導しているようなものに等しい。
今度は前のように大勢のギャラリーもおらず、ベンチでルイズにキュルケ、ついでにタバサの三人だけが見物するのみだ。
「やあっ! とうっ!」
ギーシュの振り回す剣はそれはもう素人同然な動きだった。
スパーダはリベリオンで受けることさえせず、僅かに体を動かす程度で容易くかわしている。
だが組み手のような形である以上、スパーダもしっかり反撃を行ってくる。
「あ痛あっ!!」
無造作に、だが力強く振り上げられたリベリオンに剣は弾かれ、ギーシュの手から吹き飛ばされてしまう。
「まだやるか?」
痺れる手を押さえて呻くギーシュにスパーダは淡々と問いかけてくる。
「も、もちろんだとも!」
「なら早く拾え」
冷然と促されたギーシュは弾き飛ばされた自分の剣へ駆けていく。
「お前は腕だけで剣を振っている。体全体を使って振ってみろ。まずはそれからだ」
「か、体全てって……どうやって?」
構え直したギーシュはスパーダからの助言に顔を顰めた。
まともに剣なんか振ったことのないギーシュにはコツがよく分からない。
「こうだ」
「いいっ!?」
残像をその場に残し、一瞬にして距離を詰めてきたスパーダは即座に両手で握ったリベリオンを高く振り上げていた。
「うわああっ!?」
顔を両腕で庇って悲鳴を上げるギーシュだったが、唸りを上げて叩き下ろされたリベリオンの刃は本人には届かなかった。
咄嗟に構えて盾にしていた剣にぶつかる寸前で、ピタリと止められていたのだ。
「すごーい……あんなことまでできるんだ……」
「本当、惚れ惚れしちゃうわねぇ」
ルイズもキュルケも目を丸くしてスパーダの剣技に釘付けになっていた。
タバサも表情こそいつもと変わらないものの、珍しく興味深そうに観察している。
ギーシュとは比べ物にならない鋭い太刀筋は素人目から見ても感嘆としてしまうほどだ。
しかもただ単に敵を倒すだけでなく、あんな器用な真似までできてしまうのだから尚更である。
それからスパーダによるギーシュへの指導は30分ばかり続いた。
ギーシュはスパーダに従って体全体を使って剣を振ろうと四苦八苦しており、時にはその剣そのものに振り回されて自分が倒れる始末。
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