ハーメルン
【完結】皇帝(おとめ)は姫(おれ)に恋してる
1. 男でも姫をやらないといけない場面がある

 無数のカメラ、そのフラッシュが俺の体を照らしていく。勝者を讃えるための華々しい舞台であるというのに、俺の心はまるで死刑執行前の犯罪者のようであった。
 未だに履き慣れないスカートの感覚に戸惑いながらも、表情を変えないよう必死に作った笑顔を貼り付ける。

「おお、あれがシンボリルドルフのトレーナーか。トレセンか頑なに情報を出さないから、さぞかし問題があるヤツなのかと思ったが……」
「ああ、これは絵になるぞ。さながら、『皇帝と姫君』ってところか。明日の一面はこいつで決まりだな」
「それはそうだろ。やっと解禁になったシンボリルドルフ陣営への取材だぞ? どれだけのマスコミがこの時を待ち望んでいたことか」

 用意された席から、マスコミ関係者の会話が漏れ聞こえてくる。まあそうだろうな。かなり各所を待たせてしまった。一切情報が出てこないことに、やきもきしていたのはファンだけではなく、マスコミたちも同じようだった。

「それにしても、かなりの美人を捕まえたんだなシンボリルドルフは。名家の出身とかじゃないんだろ? どこで見つけてきたんだ、あんな逸材」
「あくまで『広告塔』や『お飾り』という可能性もあるがな」
「いや、ないだろう。それをやるなら名家から誰か連れてきたほうがはるかに効果的だ。つまり、アレにはそういった奴らをしのぐ何かがある、ってわけさ」
「確かにそれもそうか。しかしなぁ、可愛いのにトレーナーとしての腕もいいってことだろ? 残酷だな。天は二物を与えるってか。ま、中央のトレーナーなんてそんなのばっかだが」

 記者たちから上がる賞賛の声を必死に受け流しながらも、俺はなんとか歩みを進める。
 そうして足を踏み出した次の瞬間、ロングスカートの裾を誤って踏んでしまい、前のめりに倒れこんでしまう。まずい、と思い体を強ばらせた次の瞬間。

「油断大敵。大丈夫かい、トレーナーくん」

 俺の体が優しく抱き止めるられた。

「だ、大丈夫。ちょっとつまずいただけだから」

 抱き留めたのは、『皇帝』シンボリルドルフ。俺の担当ウマ娘であり、今こんなことになっている原因を作った存在でもあった。

「そう緊張しなくても大丈夫さ。トレーナーくんが男だと気づく者なんていないだろう。こんなに可愛らしい姫なんだからね」
「やめて、ほんとうに姫はやめて……」
「ほら、口調が崩れているよ。全く、緊張するとボロが出そうになるね」
「う、うう……」

 白のドレスを見に纏い、シンボリルドルフの隣に立つ俺。
 俺は中央トレセン学園のトレーナー。シンボリルドルフの専属であり、その性別は『男』。
 なぜこんなことになっているのか、その理由を語るにはデビュー前まで遡る必要がある——

***

「突然だがトレーナーくん、デビュー前になんらかの対策を立てておかないといけないことがある」
「対策……?」

 トレーナー室に担当であるシンボリルドルフの声が響いた。いつにもなく真剣な雰囲気に、俺も背筋を伸ばして真面目な表情になってしまう。

「私がデビュー前だと言うのに注目されているのはトレーナーくんも知っての通りだと思う。当然、担当となったトレーナーくんへも注目が集まっているんだ」
「注目、注目ねぇ。確かにそうかもしれないけど、ルドルフに比べたら微々たるものだろう? 俺なんて、ルドルフの付属品みたいな扱いさ」

[1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析