アーネンエルベ④
東メインストリート付近、高台屋上
パチパチ、パチパチ、パチパチ。
死闘の結末。
舞台の幕引き。
それを見届けて、一人の男神は微笑みながら拍手の音を流れる風に乗せる。
「見事素敵最高、ベル・クラネル。俺はお前の偉業を確かに讃えよう。俺とてまさか、過去の遺物と走り抜ける子供がいるとは流石に思わなかった」
既にこの下界には存在しない、【ゼウス・ファミリア】の傑物達。
既にこの下界から去って行った【ヘラ・ファミリア】の英傑達。
過去のオラリオにおいて最強と謳われた眷族達の物語は、確かにベルの背中に受け継がれていたらしい。今日この日、たった一人のちっぽけな少年の『物語』の一ページを目撃者達は忘れることはないだろう。彼等彼女等は、酒場できっと語り継ぐだろう。「確かに、あの場には最強と最凶がいたのだ」と。
「これで・・・戻れなくなったな、少年」
一人の少年の『平穏』はこの日を境に豹変していくことだろう。
迷宮都市にいる限り、否応なく時代のうねりに巻き込まれていく。ここは、そういう場所なのだ。
エレボスの金の瞳に、血濡れになることもお構いなしにベルを抱きかかえて名を叫ぶアストレアの震える背中が映り込む。慈悲深く、優しいあの女神は可愛がっていた少年が弱っていく様を見て涙していることだろう。戦わせてしまったことに強く責任を感じていることだろう。
それほどまでに、ベルは瀕死の重傷だった。
体中から絶えず流れる血は、アストレアが押さえても止まらず。
眷族達がベルに似た髪型の青年が運んできたバックパックの中にあった回復薬や万能薬を使っても、傷はすぐに開いて血溜まりを作ってしまう。
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