2. 急接近
「たゆぅー、抱いてー」
「ダメです!」
「どうせ誰も見てないってばー」
「見てなくっても私が気にするんです。恋人でもないのにそういうことするのは良くないことです」
「アホなのに真面目だよねぇ、たゆ。そういうところ結構好きだよ」
「んもーっ! からかわないでください!」
たゆはぷんすこ怒って、一人でお風呂に行ってしまった。
レッドグラッジ襲来から数日後の夜、危機を乗り越えた私とたゆの距離は縮まるどころか広がった。原因は告白とちゅーである。
大好きです、と言ってはにかむたゆは確かにきれいだった。本当にかわいいやつだと思った。でもそれがいわゆる愛の告白なんじゃねと思い至るのには若干遅れて、あの日のお昼にはたと気づいた。
『あれっ、私もしかして告られた?』
どんがらがっしゃん、とたゆは洗濯かごをぶちまけてすっ転んだ。今更蒸し返されるとは思わなかったみたい。真っ赤な顔を両手で覆って赤べこよろしく首を振っていた。
女同士とか、魔法少女と魔人で天敵同士だとかは一旦脇に置いて、私はこう返答した。
『悪いけど私怠惰の魔人だから、そういうの分かんないんだ……保留させて』
結論の先延ばし。だってほんとに好いた惚れたとか分からないもん。食べて寝て起きるだけの生活で満足できちゃうんだもん。恋愛は専門外。
たゆは真剣な顔つきで保留を受け入れてくれた。その代わり始まったのがスキンシップの自重だ。一緒にお風呂に入ったり寝たり、対面で抱き合ったりするのが禁止された。許されるのは手をつなぐことと膝枕くらい。辛い。抱いたり抱かれたりする気持ちよさを教えてくれたのはたゆなのに、理不尽だ。
そう思って不意打ちで抱きついてみたら、かなり深刻な反応をされた。
『お願いだから……我慢ができなくなるから……お姉さんを傷つけたくないんです』
両手をわなわな震わせて心底悔しそうにするので、私も引き下がるしかなかった。私も困らせたいわけじゃない。
とはいえ人肌の温もりはやっぱり恋しくて、最近は欲求不満だ。あの柔らかで温かい体に包まれたい。しなやかな腕に抱かれて耳元で囁いてほしい。その快感をなまじ知っているから、余計悶々とする。
たゆの姿を無意識に目が追いかける。ショートボブの下にちらちら覗くうなじとか、ブレザー制服の上からでも分かる立派な胸とかお尻とか。昨日は晩ごはんを食べてるとき、瑞々しい唇と赤い舌に目が惹かれた。
「お風呂あがりましたー」
今もそうだ。パジャマ姿の火照ったたゆに目が吸い寄せられる。
「お姉さん?」
艶々した黒髪に天使の輪が浮かび、薄手の生地の下に驚くほど美しい体の起伏が見える。思わず視線を下にやると、桜色のきれいな爪の揃った素足が見え、呼吸さえ忘れて見入ってしまう。
「な、何か変ですか?」
たゆは不安げに体の各所をチェックし始めた。そこでようやく私も我に返る。とたん、顔が耳の先まで熱くなった。
めっちゃ意識しちゃってる。たゆが告白してきた意味を、理屈じゃなくて感情とか本能の部分が理解してきてるみたい。たゆをそういう相手として認識するフィルターが出来てる感じがする。
我ながらウブというか純情というか。思えば魔人として生まれて二年と少ししか経っていないから、色恋に疎いのは当然か。
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