3. 蜜月
「きゃーっ、大技ぁ!?」
レッドグラッジの掲げた戟が輝き、幾筋ものレーザーが後ろから迫る。髪の毛がちょっと焦げた。こっわ。
「今掠ったんだけど。もっと気合入れて走れ走れ馬車馬のごとく!」
「サフィもなんかしてくださいよ! 魔人パワーでどかーんって!」
「できるかぁ! こちとら怠惰の魔人ちゃんだぞう!」
私の弱さをなめちゃいけない。喧嘩したらそのへんの小学生にも負ける自信がある。こんな鉄火場でできることなんかあるわけないのだ。
「こんのっ、やられっぱなしじゃないですよ! 『こいねがえ しとどのあいを』」
「ちょっ」
レーザーの隙間を縫って、たゆが振り返りざま大剣をひとふり。その太刀筋から渇血のようにドス黒い球が生まれ、尾を引いて流星雨のごとく翔んでいく。
鮮血の赤と渇血の黒が衝突し、無数の爆発があぜ道を抉った。レッドグラッジは平気そうだけど車が横転して……いや、吹っ飛んでる。爆風に煽られ、放物線を描いて水田に頭から突っ込んでいた。大丈夫かあれ。
「やりすぎじゃね?」
「……最初に撃ってきたのあっちだもーん」
「もーん、じゃねえよコラ」
またレッドグラッジにニュースで遺憾の意とか言われるぞ。
レッドグラッジが戟をぶん回し、たまに魔法をぶっぱして、私は野次を飛ばす。必殺機構の一般人たちは車で追随しながら飛び道具をちくちくしてきて、たゆは散発的に反撃しつつ自動車並みの速度で逃げ回る。
撒いたら私たちの勝ち、死んだら敗け。今のところは全勝だ。たゆによると運命の固有魔法同士が激しく相殺しあってるらしいけど、私には何も見えない。
夏の田舎町に怒号と悲鳴が響く中、私たちは追って追われてを繰り返す。私が元の権能を取り戻すまで。その日は遠くないはずだけど、いつになるかは分からない。もしかすると夏が過ぎ、秋が来て冬が来ても鬼ごっこを続けてるかもしれない。
追手はレッドグラッジと必殺機構だけじゃない。正義感の強い他の魔法少女たちや、たゆを狙って『闇狩り』の連中もやってくるだろう。
だけど私たちは大丈夫。運命に味方されるたゆはびっくりするほど強くなった。私も、『何もしたくない』と『たゆと共に生きたい』矛盾を受け入れた。たゆが受け入れさせてくれた。
大切な人の傍にいて、互いに存在を感じられる。忙しない逃避行でもたゆがいてくれるなら満足だ。
だから私はがんばらない。
ーーー
魔人ちゃんは、がんばらない。
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