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実を言うと、ただ呪霊を祓うだけの任務なら、それこそ特級でも出ない限り何とか出来る自信はある。いつもの任務のように「ただし」とめんどくさい制約があるわけでもなく、とにかく相手を斬ればいいならなおさらだ。
どんな力をもっていたとしても、無敵の呪霊など存在しない。勝ち筋までの道を選び、その通りに動けばいい。
「お疲れさまでした、家入術師」
「どうも」
刀の汚れを払って、鞘におさめる。
運転手兼案内役としてついてきてくれた補助監督が、お怪我は、と尋ねてくれる。初めて見る顔の彼は、他の補助監督と同じく黒いスーツを身にまとっていた。
「怪我はありません。問題なければホテル直行してもらえますか。明日の朝一で次の任務に飛びたいので、新幹線の手配お願いします」
「了解しました。……が、明日の朝一で大丈夫ですか? 久々の出張続きと伺っていますが、そろそろお疲れでは。一日くらい休息の時間をとっても日程としては問題ないかと思いますが……」
そもそもかなり巻きで任務を片付けているのに、と心配そうな顔を向けられる。
このひとも他人の心配をしてしまうお人好しのクチか、と思いながら、構いませんよ、と彼の隣を通り過ぎる。実際、さしたる疲労は感じていなかった。
「おかげさまで移動中に睡眠が取れているので、むしろいつもより寝てますし。……ああ、すいません休みたかったですか?」
「ああ、いえ、自分の話ではなく! 自分は家入術師が次の任務地に向かうのを見届けたら交代ですし。問題なければそのように手配いたします。差し出がましいことを申し上げました」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
妙にへりくだる彼を不思議に思いつつ、車の後部座席に乗り込んだ。柔らかい座席に背を預けて、ふうとひとつ息をつく。
運転席に乗り込んだ彼とミラー越しに目が合った。小さく微笑んだ彼は、ホテルについたら起こしますよ、と軽く言ってくれる。彼の運転は丁寧で快適なので、睡眠を摂るには非常にありがたかった。
小さく欠伸をしつつ、回らない舌で礼を言う。すると彼は、くす、と小さく笑った。親しみと切なさの両方が詰まったような、儚い笑い方だった。
「……ああ、すみません、以前から家入術師のことは伺っていたのですが、あまりにもお話通りの方だったので、つい」
「はあ。ろくな噂じゃなさそう」
「いえいえ、むしろいい噂ばかりですよ。補助監督相手にも丁寧で、無理難題を押しつけることもなく、小さなことにもお礼を言って、気遣いをみせてくれる方だと」
「俺は俺のこと、ごくごく普通の人間だと思ってんですけどね。むしろ他の術師どんだけクズなんだろ」
「ははは、ノーコメントでお願いします」
補助監督も大変ですね、と言えばもはや笑うしかないという様子の彼。いや本当にすげーなと思う。術師の相手とか俺なら絶対にやりたくない。
それからまた彼は少し笑って、息をついて、車を発進させた。
「……アイツからも、よく話は聞いていたんです」
アイツ、と彼は言った。薄れさせようとしていた記憶が、一瞬にして蘇る。
よく運転席に座ってからからと笑っていたこと。任務の追加情報がほしいと言えばふたつ返事で頷いて、頼んだ以上の情報を提供してくれたこと。結界術の話を聞けば、出し惜しみをせずに丁寧に教えてくれたこと。わざわざ桜餅を差し入れてくれたこと。
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