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「お前まじで気が短いっつーか、ひとの話を最後まで聞かねえよな」
は、と夏油の口から息が漏れる。
確かに回りくどい話し方をしてしまったが、だからってそう結論を急くなと思う。それに、ちゃんと自分の頭を使って考えろとも。
ちょっと考えればわかることだ。それが、早とちりでしかないことくらい。
「原因を絶つとは言ったが、五条を殺すとは言ってねーだろ」
ぴたり、と夏油が動きを止めた。開ききった瞳孔は少しおさまり、その眼には戸惑いの色が見える。違うんですか、と囁くようなつぶやきが漏れた。
違う、と俺はその勘違いを切り捨てる。
「仮に五条を排除したとして、せいぜい五条が生まれる前の世界に戻るだけ。五条が生まれて呪霊が活性化したのは事実だが、その前からすでに日本の呪霊発生率はおかしかったんだよ。だったら五条ひとり排除して呪霊の発生が減少することを期待するより、本人に一体でも多く強力な呪霊を祓ってもらった方がずっといい。幸いにも五条はどっかのろくに仕事しねー特級とは違って、呪霊の祓除に積極的なんだから」
「海月、それは誰のことを言っているのかな?」
「だいたい五条がどんなに長生きしたとしても、せいぜい百年後には勝手に死ぬだろ。それをわざわざ殺す必要がどこにあるよ。殺そうとして殺せるやつでもねーってのに」
「ひどい、こんな美女を無視するなんて!」
外野がうるせーが、まあ気にすることはない。
確かに五条がこの世界に与えた影響は非常に大きい。だが、おそらく五条はその人生の間に、自身が活性化させた以上の呪霊を祓ってくれる。どうせ呪術師以外の生き方なんか絶対にできない呪術師の鑑なのだ、だったらせいぜいその真価を発揮してもらおう。
だからむしろ、五条悟には生きていてもらわないと困るのだ。排除すべきは、五条じゃない。もっとこの呪術界の、根本に在るモノ。
「普通に考えりゃわかるだろ。五条が生まれる前からこの国の呪霊発生率は異常だった。それは何故だ? 呪術的な観点から考えて、この国と諸外国との最も大きな違いは何だ?」
遙か昔からこの国の要として鎮座している、呪力の塊。
正直なところ、俺はその存在を「人間」として扱っていいのかすら疑問だった。
あまりにもわからないことが多すぎるうえに、生きた人間を贄として要求するような存在。多分俺は、それを「人間」としては扱いたくないと心のどこかで思っている。だいたい「不死」なんて、そもそもひとの手に負えるはずがない。
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