track3 Lamb.を踊る彩子を見たい委員会
「はあああああクソ! 本当クソ、マジあり得ねえわこれ」
「あははははは、ザマァないね!」
今日は土曜日、以前から遊んでた対戦格闘ゲームの新作が発売されたので、早速買った俺の家に友人の亘利が遊びに来ている。
のは良いんだが。
「これで通算15戦13勝2引き分け。当方の完勝ですな」
そう。前作から愛用してるキャラを使う俺は、今作から追加されたキャラを使った亘利に1勝もできない無様を晒している。
「これ絶対設定した奴馬鹿だろ、技のリーチ最長なのにフレームもクソ速いのなんでだよ」
「仕様なのでぇ」
「だからそれがおかしいって話だよ」
「まあ……今後のアップデートで絶対ナーフされる性能はしてるよね」
「コンボ繋げ易いし、ヒットボックス小さいし……プロデューサーが声優好きでエコ贔屓してるのかって」
「僕は負けて発狂してる君を見られるから心底好きだけどね」
「おう、リアルファイトに切り替えても良いんだぜ」
「お〜お〜弱い奴に脅されても怖かない」
くっ、コイツ……前作でハメ技見つけた俺に33勝4引き分けされた時の事を絶対根に持ってやがるな。
このまま当時の記録を破って143連敗まで持ち込もうとしてる魂胆は見え見えだ。その手には乗るか。
「──やめやめ! 今日は波が来てないわ、別のゲームやろう」
「んー……まぁこれ以上拗れてもだし、良いよ。それじゃあさ……」
意外にもすんなり提案を受け入れた亘利が、持ってきた鞄をゴソゴソして取り出したのは、
「これやろうぜ、個人的に待望の作品だったんだ」
「……は?」
亘利が見せたのは、真ん中にこちらは手を差し伸べてる女の子と、その周りを囲む様に居る特徴豊かな女の子の描かれたパッケージのゲーム……つまり、恋愛シミュレーションゲームだ。
「君は馬鹿なのか」
「君の友達」
「うん、類友理論で俺を巻き込むのはよそうか。ていうかネタ抜きで馬鹿だろお前、普通友達の家で恋愛ゲームやる奴がいるか?」
「君の目の前に」
「させねえよ」
頭が痛くなってきた。コイツと友人になった当初は何度もあったが、慣れるにあたって感じなくなったそれが久しく俺を襲う。
「お願いだよ〜、1ルート分だけで良いから」
「ガッツリやる気じゃねえか、自分の家でやれよ自分の家で!」
「家族にやってるのバレたら恥ずかしいじゃないか」
「俺も恥ずかしいよ!」
なんて奴だ、サイコパスの才能があるかもしれない。
果たして自分の交友関係を見直すべきか、にわかに検討し始める俺に対して、亘利はプライドのかけらも無い土下座姿を見せた。
「この通り! 恋愛ゲーだけどシナリオが神だから、どうか、せめて共通ルートの所まででも頼みます……!」
「えぇ……嫌だ」
嫌だけど、さっきまで俺を煽りまくってた奴がここまで必死になってる姿を見ると、立場逆転したみたいでちょっと気持ちがいい。
まぁ、共通ルートってのがどこまで掛かるのか知らないけど、たぶん1時間もしないで終わるだろうし……今日だけ良いか。ゴネ得みたいでやや癪だが。
「……分かったよ、ただし本当に共通ルートまでな? あと渚の部屋にまで届く大声は出さない事」
「──ッ! ありがとうございます!」
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