ハーメルン
【完結】大人になった君が見たいから
track5 渚がカラオケで楽しそうに歌う姿だけを見ていたい

「ふふーん、何歌おうかな……」

 今日は渚と2人でカラオケに来ている。
 別にとりわけカラオケが好きってわけじゃないが、先日2人で買い物に出かけた際、たまたまやってた福引でカラオケ代が半額になるクーポンを当てたものだから、もったいないと行く事にした。

「どっちから歌う? 私はどっちでも大丈夫だよ」
「そうだな……じゃあ俺からで」
「はーい」

 とは言え、何を歌ったら良いものか。
 今回みたいな事がなきゃ、カラオケに来るような人間でもなし。そりゃ亘利や他の友達と一緒に行く事はあるけど、クラスメイトと歌うのと、妹とは言え女子中学生と行くのとは話が別だし。

 いくら家族相手でも、女の子が知っててかつ、盛り上がりに貢献する曲と言えば……男性アイドルの曲は歌える程度には知らないなぁ。

「お兄ちゃん」
「ん? 待ってくれ、今曲決めるから」
「別に私が知ってる曲を選ばなくても大丈夫だから、歌いたい曲を選んで?」
「あー……お気遣い痛み入りマス」

 流石に悩んでるのがバレたみたいです。

「オタクの人が歌う曲でも良いよ。私も気になるし」
「いやいや、別にオタクソングが得意なわけじゃ」
「そうなの? 亘利さんと恋愛ゲームやるくらいだし、お兄ちゃんはそういうの好きだと思ってた」
「渚……あれは亘利が持ってきた物だって前に説明したじゃないか」
「あの後もよくお兄ちゃんの部屋で遊んでるのに? 亘利さんのためじゃなくてお兄ちゃんが楽しんでない?」
「……」
「お兄ちゃ〜〜ん?」
「シナリオが……神なんだ」
「まぁ、そういう事にしてあげる」

 おのれ亘利、絶対許さん。

「それよりほら、歌おう! 時間がもったいないよお兄ちゃん!」
「──おうよ!」

 取り敢えず、一曲目はアイツへの怒りも込めたガチガチのロックンロールに決めた。絶対ボルト&ナットで締めてやる。


「──ふぅ、やっぱ普段から歌ってないと喉が広がらないや」

 思ったより高音出せないし、無理に声出そうとしたら喉を痛めそうだ。
 せっかくのカラオケで喉痛めて終盤歌えない、なんて事は嫌なので気をつけて歌わないと。

「喉からじゃなくて、お腹から声出すと楽になるんだって。私もやってみるよ」
「渚が歌うのめちゃくちゃ久しぶりだから楽しみだ」
「あんまり期待し過ぎないでね」

 照れ笑いの後に渚が選曲したのは、俺や渚と同年代の少女ユニットによるアイドルソングだった。
 あまり知らない俺でも、耳に入れた事があるなぁ程度の認識だったが、渚が歌える位だから、やっぱ大ヒットソングなんだな。

 歌詞の内容は俺が歌ったロックとは当然違い、等身大の少女の気持ちを訴える様なものだ。キャッチーなイントロや間奏は確かに人の頭に残りやすいなぁ、と思ったのだけど。
 1番聞いてる俺の印象に残ったのは、他ならぬ渚の歌唱力だった。

「──はぁ……お兄ちゃんの前で歌うからちょっと緊張しちゃった。どうかな、変じゃ無かった?」
「いや、変どころか──うますぎない?」
「えぇ、そんな事ないよ!」
「良いやそんなことある、凄くある! なんて言うかもう、完全に歌手の歌唱力だったよ渚の歌!」


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